聞き書 奈良の食事 吉野川流域の食より
■秋祭り
三~五反の田んぼに一年の半分以上かかりっきりであった仕事も終わると、一年中で一番大きなお祭りである秋祭りを迎える。
十二月七日の秋祭りはさばがたっぷり食べられるので、別名「さば祭り」ともいう。生さば、塩さばのほかに、さいら、たこなども一年中で一番たらふく食べられる日で、この日はふだんの箱膳ではなく、ひのきの卓袱台にごっつぉを並べ、親せきの人をよんでいただく。
昼から酒がよばれられ、「つきだしのおかず」(酒のさかな)として、こんにゃくのきんぴら、ごぼうのはりはり、金時豆の煮豆などをつくる。「ごんざ(ふつう)のおかず」には、ちくわやにんじんの煮つけや、さいらの焼きもんをつくる。おつい(おつゆ)は、豆腐とかまぼことねぶかの味噌汁にする。
また、新米のもち米であもも搗く。あもにまぶすあんは、小豆をていねいにさらして甘くする。おなかいっぱいよばれるが、あとからぐっときて、しんどい。
夜は、つきだしのおかずや、高野豆腐、かまぼこ、しいたけ、たけのこを別々に煮ふくめて盛り合わせた「かしわん」、さばの焼きもん、たこの刺身などをつける。米のごはんもたくさんよばれられる。
翌日の朝はゆっくり起き、あんつけあもなどを食べ、昼にはさばごはんをよばれる。さばごはんは、塩さばを焼いてほぐして米と一緒に炊きこむ。ねぶかを加えて食べると、ほっぺたが落ちるほどおいしい。
一晩泊まってもらった招待客には、竹の皮に包んだ塩さばと、八寸の重箱の上段にあんつけあもをいっぱい詰め、下段に白もちを詰めて持って帰ってもらう。風呂敷包みがずしっと重たい。
秋祭りが終わるころには、吹く風はずいぶん冷たくなっており、麦づくりや、男は炭焼き、薪づくり、女は俵編み、縄ないの季節を迎える。
写真:秋祭りの夜の膳
左の膳:かしわん、さばの焼きもん、米の飯、おつい(かまぼこ、豆腐、ねぶかの味噌汁)/右の膳:つきだしのおかず(こんにゃくのきんぴら、ごぼうのはりはり、金時豆の煮豆)、たこの刺身、おひたし、酒
出典:藤本幸平 他編. 日本の食生活全集 29巻『聞き書 奈良の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.217-219