ICT技術を駆使してサルの個体数管理と被害軽減に取り組む

連載鳥獣被害対策

2020年01月11日

大丹波地域サル対策広域協議会のサル位置情報配信システム「サルイチ」

いつ畑に来るかわからないサル対策は難しいといわれる。日本在来種であるニホンザルは群れでやってくるため、一度に受ける被害が甚大である。追い払いをせずに被害を見過ごしていると、人馴れして人や人家の近くまで現れて屋敷内に生えている柿の実をあさったり、人家の屋根の上で白昼に堂々と毛繕いをしたり、やがて人家や倉庫の中まで侵入するだけでなく、人に向かって威嚇するなど行動がエスカレートしてくる。生活被害を及ぼすだけでなく、とくに高齢の農家にとっては収穫間際のおいしい部分のみを食い散らかすので、精神的に受けるダメージが大きく、場合によっては人身被害の危険まで及ぶため、非常に厄介な存在である。

このようにサル被害は単純に金額だけにとどまらないことから、被害が広がらないうちに適切な対処をしていくことが求められる。

近年、京都の中部から兵庫県の中東部にかけて広がる丹波地区では、こうしたサルの被害が広がっている。この地区は小高い山地に囲まれた3つの盆地からなり、かつて丹波国として一つの文化をもつ地域(図1)。そのため、平成22(2010)年、7市町が「大丹波連携推進協議会」を発足させ、観光などで行政区を超えて協力し合って、全国的に知名度の高い「丹波ブランド」を押し出す施策をとっている。

図1 大丹波地区 福知山市・南丹市・京丹波町・篠山市・丹波市からなる

サル対策においても広域的な対応が必要ことから、平成29(2017)年3月に兵庫県2市(篠山市、南丹市)と京都府3市町(福知山市、丹波市、京丹波町)で「大丹波地域サル対策広域協議会」を発足(図2)。ICT技術を用いたサルの群れの位置情報をもとに住民への情報発信や分析をすすめながら、サルの捕獲目標や被害予防対策に関する情報を共有し、施策をすすめている。

行動域や行動パターンを読んでサル対策に活かす

サル対策に取り組むにあたって知っておくべきことは、サルの生態や行動の特性である。

サルは昼行性の動物で、シカやイノシシなどと違って、昼に田畑の作物を荒らすため、被害を受ける様子が人の目につきやすく、その分人間の心理を刺激し、ダメージを与える。サルの群れはメスを中心にした母系社会で、平均40頭ほど(10〜100頭を超える場合もある)の集団で生活している。一方、オスは群れを離れて1匹で行動することが多いことはよく知られている。

広域協議会では、一つの群れのなかでメス1、2匹の首に発信機の付いた首輪を装着し(写真1)、その行動を観察、分析する。その結果、それぞれの群れには別々の行動圏があり、行動圏内にある集落を巡回していることがわかってきた。こうしたパターン化された行動範囲と移動ルートを分析することにより、サルの被害を防ぐために、より精度の高い予防対策が行えるようになっている。

写真1 発信機を装着したメスザル

兵庫県がサルに発信機を取り付けてその行動を監視し始めたのは平成24(2012)年。当時は兵庫県立森林動物研究センターが主体になり、専門の監視員が配置されて行われていた。その情報は兵庫県森林動物研究センターのシステム上にアップされ、市町村にも共有されてサル対策に活かされてきた。例えば篠山市では、得られた情報を元に住民にメール配信するなどの活用をしていた。とはいえ、テキスト情報が主で、地図などビジュアル的な情報ではなかったため、その情報が現在のように幅広く予防対策に活かされることはなかった。

その県主体の事業が市町村に移管されるのを機に、丹波地区では篠山市が先頭を切ってその位置情報を活用したサル対策に取り組み始めた。やがて、その成果が近隣の市町に伝わると、篠山のサル対策を丹波地区として広域に展開していこうとの機運が高まり、2018(平成29)年3月には大丹波地域サル対策広域協議会が設立される。こうして、府県と市町の連携や官学民の連携をもとに、サル管理の新しいモデルづくりに取り組む体制ができあがったのである。

「サルイチ」の配信情報で効率的に追い払い

このサル位置情報発信システムを開発したのは、広域協議会に民間団体代表として参加するNPO法人里地里山問題研究所(鈴木克哉代表)。これまで篠山市でサル対策を支援してきた経験を活かし、「サル管理の新しいモデルづくり」の一環として、現場の住民の声を取り入れながら1年かけて地元のシステム会社とともに開発・制作してきた。

そのシステムの名前は、「サルイチ」。スマホやパソコンで、いつでもどこにいても、「サル」の最新の「イチ」(位置/居場所)がわかることから名づけられた。サルの群れが事前に登録しておいた指定する距離に近づいてきたら、メールで連絡が届く。優れているのは、テキストデータのみでなく、地図の画面でサルの群れの位置も確認できることである(図3)。

サルイチ
図3 NPO法人里地里山問題研究所が開発したサルイチ。利用の際にはwebから登録をする。

 

 

管内に居住する住民であれば、だれでも簡単な操作で登録可能。図のように、まず、「ニホンザル出没情報」にアクセスし、メールアドレスや名前、住所、電話番号を入力。そのあとで受信の基準となる自宅や畑のある場所の住所を入力するか、地図上に場所をタッチして住所を登録する。

その上で、現在管内で確認されている5つのサルの群れ(篠山A群〜篠山E群)、その他の小さな群れ、ハナレザル(オスザル)のなかから、情報を受け取りたい群れを選択する。さらに受信の基準となる場所を登録し、対象となるサルの群れがどのくらいの距離の範囲内に接近してきたときに情報を受信するかについて、「指定しない、2㎞以内、4㎞以内、6㎞以内」のなかから選択。あとはIDとパスワードを決めて入力すれば登録完了となる。

登録すると、サルの位置情報を知らせるメールが日曜日を除く毎日2回届く(写真2)。この情報をもとに、群れが近づきつつある場合には、被害を受けないように事前に収穫を早めたり、過去の移動ルートなどの情報と照らし合わせて(写真3)、来そうな日を予測し、その情報を集落の人たちで共有し合って近づいてくるのを待ち構え、集落ぐるみで追い払い活動を行ったりすることができる。

写真2 サルの位置情報を知らせるメールが日曜日を除く毎日2回届く。このとき受信範囲の距離を設定しておけば、範囲外のサルの情報は送られてこない
写真3 webサイトのアクセスすれば群れごとの過去の移動も移動情報できる

実際に「サルイチ」を利用している農家の方々からは、次のような反響が届いている。

「以前と比較するとサル被害が極端に減少しました。サルが近くに来ることが予測できる日は、朝6時半頃から日没まで1日中畑に出てサルの侵入を阻止しています。」(南丹市の71歳女性)、「6㎞以内に近づいたときにメールが届くように設定し、近づいたときには近所の人にも注意喚起をしています。」(福知山市の66歳男性)、「集落に近づく前にサルの位置がわかるので、早め早めに対策がとれて大変喜んでいます。篠山A(三和A)も頭数が約三分の一になり対応がしやすくなりました。」(京丹後町63歳男性)、「情報からどの辺にいるかを察知でき、追い払いに対処できています。サルが長く居すわらなくなりました。」(篠山市の73歳女性)

このように、「サルイチ」による位置情報の発信は、地域住民の方々にサルの接近に対する注意を喚起し、地域ぐるみで協力し合いながら追い払いを行い、被害を未然に防ぐのに大いに役立っていることがわかる。

監視員の日々の活躍がシステムを支える

この位置情報発信システムを稼働させるために、広域協議会では、2017(平成29)年度からこの事業に取り組んでいた篠山市から引き継いで2人の監視員を雇い、月曜日から土曜日まで交代で週3日ずつ、サルに取り付けた発信機の電波を感知するアンテナを搭載した「獣害パトロール」車に乗って、サルの群れの居場所を確認しながら回っている(写真4)。国道や県道から、集落内の細い道や田畑の中を走る道、山の中の道まで、その移動距離は1日に120〜250㎞にも及ぶという。

午前8時半から車で監視活動をはじめ、午前11時ころまでには5群のサルそれぞれについて位置情報(居場所、目視できたサルの数、被害状況など)をタブレットで現地入力して登録し、一度メールを配信。午後にももう一度同じように情報を登録し、メール配信を行っている。

写真4 車の外にアンテナを取り付け、サルに取り付けた発信機からの電波をキャッチする。電波をとらえるとビッ、ピッという音を発する。見通しがよい場所だと1km離れた先からでも聞こえてくるという

集落内を回って、車の外に出てアンテナでサルの居場所を確認する作業を行っていると、住民の方々から声をかけられることもしばしば(写真5)。
「せっかく大事に育ててきたものがサルに取られてモヤモヤした気持ちになっている住民の方々の話を聞いてあげるのは、監視員の重要な役割の一つなんです」と、監視員の一人中岡聖さんは語る。

写真5 アンテナを向ける方向で音が変わる。一番大きく音がする方向にサルがいる

車には追い払い用の花火も積んでおり、集落の人から要望されれば追い払いを行ったり、一部地域では捕獲を行ったりすることもある。監視員は地域に根ざした獣害対策を指導してくれるとともに、相談にも気軽に乗ってくれる良きアドバイザーとして、集落の方々から大きな信頼を得ているといえるだろう。

計画的な個体数管理を基本に

このシステムを活用しながら、広域協議会や市町ではどのようにサルの管理をすすめているのだろうか。

このシステムを設計したNPO法人里地里山問題研究所代表の鈴木克哉さん(写真6)によると、「サル対策にあたっては、計画的な管理をするか、無計画に対応するかで、その差は大きい。まずは現状把握に基づく計画をしっかりと立てるべき」とのこと。

写真6 「サルイチ」のシステムを開発したNPO法人里地里山問題研究所(さともん)代表の鈴木克哉さん

現状把握としては、まずサルの生息状況について、何群いるのか、またそれぞれの行動域や個体数、加害レベルを把握し、さらに被害状況として、被害時期や被害作物の種類、被害量、被害発生範囲(集落)、生活被害や人身被害の有無・程度を把握するのが重要である。

まずは、住民に対するアンケートの調査結果や府県段階でのモニタリング結果などの大まかな情報をもとに広域的な生息状況を把握し、管理を強化すべき群れを特定する。その上で、市町村段階でさらに細かく、管理すべき群れの頭数や構成、行動域、さらに詳細な加害レベルについてモニタリングするために、群れのサルに発信機を取り付けて、その動向を継続してつかむことが必要になる。

広域協議会のサル対策は篠山市の対策がベースになっている。そこで、以下では篠山市でのサル対策を詳しくみていきたい。

篠山市のサル対策の基本は、「計画的な個体数管理」と「集落主体の被害対策への支援」の二つ。「計画的な個体数管理」とは、これまで述べてきたように、サルに発信機を取り付けて群れの生息状況や被害状況に応じた捕獲をすすめること。
兵庫県では、サルは個体数管理(捕獲)対象であるとともに、保全(保護)の対象でもある。そのため兵庫県の方針として、群れを全滅させるような「全体捕獲」は禁止されており、一定数の個体数が維持できるように配慮しながら、被害を軽減させるための捕獲を行わねばならない。

その基準をどこに置くのかは難しいところだが、篠山市の方針では管理しやすい(追い払いがしやすい)群れのサイズとして、オトナメスの数に配慮しながら、40頭前後を目標基準としている。

これを超えて増えると、一度の被害が甚大になるだけでなく、追い払いの労力が増し、さらには群れが分裂して、被害が拡大することにもなりかねない。

捕獲対象としては、まずこれまで何度も被害を及ぼしてきた問題個体とオスを優先して捕獲する。兵庫県のニホンザル管理計画に従い、オトナメス15頭以下の群れについては原則としてオトナメスの捕獲を行わず、さらにオトナメス10頭以下の群れについてはコドモも含めてメスの捕獲を行わないことにしている。

篠山市では、2013(平成25)年当時、図4、5のようにA群〜E群の群れごとに、標準的な目標個体数(40頭程度)を目安に、群れごとに現状の個体数に基づいた捕獲目標を決定し、個体数の管理を行ってきた。頭数が少ないE群については捕獲の対象外とし、それ以外については「部分捕獲」(群れの個体数を減少させて、群れサイズの縮小を図ること)と「選択捕獲」(兵庫県の基準に従い、オトナメス数に配慮し、性・年齢等を判別しながら捕獲すること)で対応してきた。

その結果、2016(平成28)年には被害レベルの高かったA群については、2013年の91頭から40頭程度にするという目標を達成し、捕獲を「部分」から「選択」に切り替えた。ほかの群れについても、多少増えている群れはあるものの、現状維持に近い個体数を維持させることに成功している。

捕獲の目的や根拠を明確にして「見える化」

捕獲の方法は箱わなが主である。2013(平成25)年には小型の箱わな(35基)を中心に群れの移動ルート上に配して捕獲を進めてきたが、捕まる個体はコドモが多く、個体数調整の対象となるオトナがなかなか捕まらない。そのため、2014(平成26)年に大型檻3基を導入する。それでもコザルが多く捕まるため、翌年(2015年)からはセンサーが付いて遠隔地から監視や操作ができるICT大型捕獲檻3基を導入(写真7)。現在捕獲を要する個体数は減少してきているため、現状ではこの3基のICT大型捕獲檻を稼働させるのみである。

写真7 太陽光発電によるセンサー&ドア閉鎖機能が付いた大型檻でワカモノザルやオスザルの捕獲がしやすくなった

サルを効率的に捕獲するために鈴木克哉さんは、檻設置のポイントとして以下の2点を挙げる。

まず第1に「必ずサルが通る場所に設置すること」。移動ルートを分析しながら、サルが安心してリラックスしながらエサを食べられそうな場所を選んで設置する。

その上で、第2に「しっかりと餌付けをする」こと。捕獲は周囲にエサがなくなる冬に行うのが効率的なため、冬に向けてサルを怪しい檻に馴れさせる作戦である。新鮮でおいしそうなエサで釣って、サルの警戒心をなくす。なかでも、地元特産の黒豆はおいしいエサの筆頭にあたる。しかも、そのおいしいエサは檻の外には置かずに中だけにある状態にして、檻の中で食べさせる。こうすることで、確実に捕獲したい個体に的を絞りながら捕獲をすすめることができるのである。

なお、捕獲檻は設置した場所で獲れなくなってきたら、移動させるのが原則。したがって、捕獲檻は容易に移動できるタイプがおすすめ。

捕獲した成果については、図6、7のようにして「見える化」することが欠かせない。こうすることで、捕獲の方針やその実施に対する地域住民の方々の信頼や理解が深まり、次に述べるように住民主体のサル対策により協力してもらいやすくなる。

 

住民主体の対策支援① 効果的な電気柵設置を支援

以上のように、計画的な個体数管理に基づいて決定した捕獲方針とその成果を「見える化」したうえで、最も力点を置くのが、「住民主体の対策への支援」策である。そのメニューはさまざま。

その核になるのは、「効果的な電気柵設置への支援」と住民が主体になって取り組む「追い払いへの支援」。電気柵の設置では、サルの侵入防止に効果を発揮するほか、シカやイノシシなどにも対応した通電式支柱「おじろ用心棒」を使った電気柵を推奨している。

兵庫県香美町で考案されたこの電気柵のシステムは、図8のように塩ビパイプにアルミテープを巻き、碍子(ガイシ)の代わりにクリップを使うことで、支柱にも通電させる。しかもワイヤーメッシュをアースの電極として使うため、サルがワイヤーメッシュを登ってきて電気の通じる線をつかむと感電するシステムになっている。支柱にも通電しているため、サルは支柱を伝わっても柵を乗り越えられないというしくみになっている。

図8 おじろ用心棒を設置する場合、サルが高い場所から飛び込むことを考慮して、樹木や建造物から3m以上は離したい
多獣種防護柵「おじろ用心棒」

ワイヤーメッシュの柵はイノシシの侵入防止に効果を発揮するとともに、その上にさらに電気柵を三本張り巡らすことにより、柵の高さは1.6〜1.8mほどになる。これはシカにも対応する電気柵として機能する。

さらにこの複合的な電気柵が優れているのは下草が多少伸びてきても通電効果が減じない点で、下草刈りなどの管理も楽になるのは、高齢者の多い中山間地域ではとても助かる。

大丹波地域でいち早くこの電気柵を取り入れた篠山市では、2012(平成24)年度から設置を開始し、2016(平成28)年度時点で58集落、のべ100㎞あまりを敷設し、大きな効果を上げている。

ただし、こうした電気柵は、適切な設置をしたあとも、電圧(5千ボルトを維持)の測定や断線などの不具合の点検といった定期的なメンテナンスによって効果を持続させることが欠かせない。

電気柵は獣がしびれるという体験を学習することで効果を発揮するもの。その電気柵に触れても感電しないことを学ぶと、逆に安心して柵を突破してくるため、電気柵は常にメンテナンスが欠かせない。

さらにあわせて集落内のエサ(生ごみや収穫残渣、お墓への供え物など)を減らす努力も必要となる。こうして柵で田畑の作物が食べられず、さらに集落内で食べられるエサが見つけられないとなると、サルの群れはその集落を素通りして次の集落に向かうことになる。

住民主体の対策支援② 追い払いへの支援

以上のように集落内でエサにありつけないようにしても、そう簡単にサルはあきらめない。その場合は集落ぐるみで追い払いを行い、徹底的に嫌がらせをする。その効果的な追い払い道具や方法の普及に篠山市では取り組んでいる。
道具としては、サルの出没を集落内に知らせる「爆竹花火」や至近距離でサルを威嚇する「電動ガン」、当たると効果が大きい「パチンコ」、それに遠くにいるサルに対して飛距離の長さと爆発音で威嚇する「ロケット花火」を組み合わせて使う。こうした道具購入に対する支援も行っている。

とはいえ、こうした道具に頼るのではなく、大事なのは集落内でより多くの人たちが参加して追い払いを行うこと。要はサルに「人」の威圧感を感じ取らせることが重要なのである。

こうした追い払いが最も効果を発揮するのは、サルが近くまで来るのを待ち構えて追い払いを行うこと。そのタイミングの判断にサル位置情報発信システムによるサルの接近情報が大きな役割を発揮する。

集落に接近しているというメールを受け取ったら、集落内にその情報を伝達し、できるだけ多くの人たちをサルが出没した場所、あるいは過去の移動ルートから分析して出没しそうな場所に集める。そして、皆で追い払い作戦を立て、横一線に並んで一斉にサルに対して執拗に追い払い活動を行う。

その際に注意したいのは、無理やり(来た方向に)「追い返す」のではなく、いつもの移動ルートを見極めて、次の移動先に向けて「追い送る」か「山の中に押し戻す」こと。そして、群れが集落から出ていったり、山奥に戻っていったりするのを確認したら追い払いは終了となる。

最近では、配信情報によりサルが集落に近づいてきていることがわかると、集落ごとに2人ほどいる実施隊が独自にアンテナを持って接近するサルの位置を正確に確認しながら、追い払い活動に取り組む例も増えている。

篠山市畑地区では、同地区に在住する地域おこし協力隊の青年が、発信機の電波を受けるアンテナと受信機を、買えば8万円するところを材料費2万円ほどで自作して、集落の人たちに使ってもらい、追い払い活動に役立てている。このようにサルイチを活用して地域が連携した追い払い事例が増えてきている。

そのほか、集落内で飼っている柴犬を、サルの追い払いを行う「モンキードッグ」として3〜4か月ほどかけて訓練・育成する活動も市では支援する。訓練された「モンキードッグ」は、サルが出没した際には山に向けて放たれ、サルを山奥まで追い払う。

現在、動物愛護法や都道府県の動物愛護条例により犬の放し飼いは禁止されているが、昔は放し飼いの犬や野良犬が集落内にたくさんいて、サルが集落に近づくのを防いでいたという。「犬猿の仲」という言葉に象徴されるように、犬はサルにとって脅威を感じる存在なので、犬に追いかけられるとサルは山の中に逃げ込む。犬はそれを執拗に追いかけ回すので、その体験をしたサルは次第に集落に近寄らなくなる。

このようにあらゆる手段を使って追い払いを徹底して行うことが、集落にサルを近づけない近道となるのである。

住民主体の対策支援③ サル対策出前講座の開催

篠山市では、こうした電気柵の設置・メンテナンスや集落ぐるみの追い払い活動を支援する出前講座を、2012(平成24)年度から集落単位で進めており、2016(平成29)年度までに129か所で開催している。

内容は、専門家によるサル対策全般に関する研修を座学で行い、そのあと屋外で追い払い技術の指導を受け、最後に集落のみんなで集落独自の追い払い作戦やその目標を立てる。

ある集落のサル対策作戦会議では、市の基本地図を広げて、柵を設置した田畑を赤く囲ったあと、サルへの対応について検討した。その予防対策の手順は以下の通り。

  • ①見つけたら、のろしとして花火を打ち上げる(または笛、鍋を鳴らす)などの方法で集落内に知らせる
  • ②合図を聞いたら、出没場所に集まる
  • ③作戦(追う人、見張りをする人、追う方向)を考える
  • ④皆で協力し合って追い払う
  • ⑤(このような追い払い活動を集落として行うために)受信機の購入を検討する
  • ⑥電気柵の点検を定期的にみんなで行う

出前講座では、このような手順でサル対策に取り組んでいくように指導、アドバイスし、集落が主体に取り組んでいくように仕組んでいる(写真11)。

情報発信・効果検証ツールから双方向性のコミュニケーションツールへ

丹波地区においては、2017(平成29)年3月に大丹波地域サル対策広域協議会ができるまで、サル対策においては各市町が独自に捕獲や予防対策に取り組んでいるような状況であった。そのため、被害は増えていくばかりで、どこの市町でもなかなか対策の効果は上がらなかった。

こうしたなか、サルの位置情報を調査する事業の主体が県から市町村に移るにあたって、篠山市では市内をおもな行動圏にする2群を含む、5つの群れを対象に、2人の監視員を雇って監視をすすめ、その情報を地域住民に発信する事業に取り組み始めた。

しかし、サルの群れは篠山市外にも移動して被害を及ぼすことから、群れの位置情報はほかの丹波地区の市町も参考にするようになり、そのシステム整備に支援金をいただくようになる。

やがて広域協議会が設立されると、2か月に1回ずつ定期的に会議を開催。位置情報の共有化とともに、篠山市が取り組んできた「住民主体の対策」のノウハウについても共有化をすすめることになる。サル位置情報発信システムの運営に関する経費については、現在厳しい財政の中で各市町が負担し合っている。

各市町の行政担当者は、地域住民に提供する情報のみでなく、「行政担当者向けページ」にアクセスし、過去の位置情報や被害状況を検索、ダウンロードして分析することができるようになっている。

そのモニタリングの結果は自動集計されるため、自分たちの市町にやってくる群れのうちで、どの群れがどの程度の加害レベルにあり、どの程度捕獲したらよいのかの判断にも使うことができ、サル対策の施策検討やその施策の効果の判定に大いに役立っている。

モニタリング結果は自動集計され、効果の検証や施策検討、加害レベルの判定にも役立てられている

現状でも、サル位置情報発信システムには、監視員が調査した結果だけでなく、住民が自ら目撃した情報の提供も可能となっているが、まだその仕組みは不十分である。

「今後はさらに、システムにコミュニケーション機能を追加して、位置情報の発信のみでなく、サル対策などをめぐって、地域住民や関係者同士が情報交換できる、より双方向性のあるコミュニケーションツールに育てていきたい。」システム開発者のNPO法人里地里山問題研究所・鈴木克哉代表は、「サルイチ」をさらにパワーアップしていく構想について、そう語る。こうした課題も含めた現場の課題を、施策に上手にフィードバックさせていくため、今後とも広域協議会や市町の中で熱い議論が続いていくだろう。

実施隊連絡会議:被害防除のための研修会の日程、場所の決定。捕獲目標の設定や捕獲状況の共有。被害発生状況や集落の取り組み状況の共有

 

関連リンク

丹波篠山市

NPO法人 里地里山問題研究所(さともん)

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