なれずし

連載日本の食生活全集

2020年12月07日

聞き書 奈良の食事 十津川郷の食より

なれずしを仕込める家は数少ない。なれずしをつくるためには、さえれ(さんま)を五〇尾も一〇〇尾も用意しなければならない。米もたくさん必要である。家によっては、夏に釣ったあゆを背開きにして塩漬けし、なれずし用に蓄えている。あゆのなれずしもつくり方は同じである。
塩がきいて身のしまったつぼ切りさえれ(背開きの塩さんま)が手に入ったら、正月の二週間前に仕込みにとりかかる。十分なれるとやわらかくなって、大骨も頭も食べられるので、骨などはとらずにそのままていねいに塩抜きをする。何度も水をかえて十分塩出しをしておかないと、できあがったとき塩からくて困る。
米はつぼ切り四尾に一合の割で用意する。もち米を混ぜる人もある。焦がさないように火加減に注意しながら、できるだけやわらかいごはんを炊くのがこつである。水が引きかけたらはしでつつき、湯を足してなじませ、これをくり返して、やっと手でまとまるくらいのやわらかいごはんに炊きあげる。冷めてから一尾分ずつまとめて、ふつうのさえれずしと同じように形をととのえる。桶にしだを敷き、さえれずしをきっちり並べる。その上にまたしだをのせてさえれずしを並べ、これをくり返す。落としぶたをして重しをし、一晩おいてから、ちょっと塩味がつくていど塩を加えた水をふたの上まで注ぎ、涼しいところへ置く。
大つもごり(大みそか)に、桶を逆さまにして水気を切り、はじめてふたを開ける。ほどよくなれたさえれのなれずしは、年始客にもふるまい、正月の気分を盛りあげる。

 

出典:藤本幸平 他. 日本の食生活全集 29巻『聞き書 奈良の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.294-295

関連書籍詳細

日本の食生活全集29『聞き書 奈良の食事』

藤本幸平 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540920035
発行日:1992/10
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 376頁

青丹よしといわれた奈良の都、法隆寺を仰ぐ斑鳩の里から山深い吉野・十津川郷まで、その歴史・民俗・食べ物を古老からの聞き書きと写真で記録。東大寺の結解(けっけ)料理など、各地の寺社料理も紹介。
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