聞き書 茨城の食事 県央畑作地帯の食より
明治三十六年三月七日の節の日記に、すみつかりの記録が出ている。
「七日、朝食九時過ぎ、鮒の甘露煮、豆腐汁、麦飯。
母、妹、下女スミツカリを拵える。これは大根下しと炒り豆と、酒粕、酢醤油とで煮たものである。初午にはこれと赤飯がつき物である。
藁苞十ばかりを作ってスミツカリを入れてうらの稲荷や氏神へ供える。表のひさしへも二つ投げ上げる。
昼飯、小豆飯、スミツカリ、卵のふわふわ。
夜、蕎麦。」
郷土食すみつかりの特徴は、正月の残りものの塩鮭の頭を利用し、節分の残りものの炒り豆を利用し、秋に畑から掘り起こして屋敷にいけておいた大根とにんじんとを利用し、それに油揚げと酒粕とを買ってきて、大きななべで煮こんで、酢、砂糖、醤油で味つけした、きわめて栄養に富む保存食であるということである。
まず、鮭の頭をさいの目に切り、水煮して油をすてる。大根とにんじんを「おにおろし」(がりがりおろし)でおろし、おろし汁ごとなべに入れる。酒粕をちぎってなべ底に入れ、その上に皮をとった炒り大豆、鮭を重ね、細切りにした油揚げを入れて、酒粕がこげつかないようにとろ火で煮る。粕がとろけたら酢、砂糖、醤油で味つけし、味がしみるまで煮こむ。
その味は十軒十色で、七軒分食べると中風にならない、などといわれる。
この郷土食すみつかりは、北関東の畑作地帯一帯に分布して、土地によって、しもつかれ、しもつかり、すみつかり、すみつかれ、つむちかりなどと呼ばれているが、下野が本場だから、しもつかれが正しいという説と、酢料理の系統だから、すみつかれというのだという説とがある。節分の終わったあと、二月の初午の日につくり、わらつとに入れて稲荷や氏神の祠に供え、表の屋根のひさしへ二つ投げ上げるところもある。初午の日の前にこれをつくると、火のまわりが早いといってきらわれる。
出典:桜井武雄 他編. 日本の食生活全集 8巻『聞き書 茨城の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.79-81