聞き書 埼玉の食事 北足立台地の食より
たくあんはちょうどおいしく漬かっているけれど、生の野菜は端境期なので、冬越しした山東白菜や葉先の枯れたねぎが大切な食材料だ。秋に貯蔵しておいたにんじんやごぼうも、春のはじめまではまだ使える。食べものはなるべく家でとれるもので間に合わせるが、このころは、身欠きにしんや桜えびなどを買って、それらをうまく利用する。
■夜――つけうどん、精進揚げ、たくあん
忙しい毎日だが、手打ちうどんを打つ。たっぷりゆでて、おつゆに薬味(きざみねぎ、七味とうがらし)を添える。にんじん、ごぼう、さつまはてんぷらにし、かき揚げにはねぎと桜えびを使う。こんな材料でも結構なごちそうになる。あとは歯切れのいいたくあんがあれば上等。
また、山に出るたけのこをふきと一緒に煮ものにするときもある。いかにも春らしいおかずである。たけのこは、やわらかいところを味噌汁に入れたりもする。田のあぜのせりやみつばも野菜の少ないこの時期の貴重な青ものである。
写真:春の夜飯
つけうどん(おつゆ、薬味にねぎと七味とうがらし)、精進揚げ、たくあん
出典: 深井隆一 他編. 日本の食生活全集 11巻『聞き書 埼玉の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.164-166