聞き書 長崎の食事 諌早・西東彼杵の食より
しゃっぱ(しゃこ)は、有明海の潟に三寸ぐらいもぐってすみ、出入口は、二、三尺あけて二つある。穴の水がきれいで澄んだ感じが、どうきんと違う。夜になると餌をあさりにはい出す。潮が引いたとき、片方の穴から足のかかとで押していくと、もう一方の穴から出かかるので、そこを縦に体を曲げるようにしてつかむ。横につかむとあばれて、鋭い二本のかまやしっぽではさまれて痛い。
生きているのを塩を入れた湯の中でゆでる。頭と尾、からだの両側を切りとると、背と腹の殻がはずれて身がとれる。殻の大きさのわりには身がつまっていないが、かにとえびを合わせたような味はおいしくて、ついはずした殻までしゃぶってしまい、舌を荒らすことがある。菜とまではいかないが、酢醤油をつけて食べれば、酒のさかなや子どもの中よけ(おやつ)にぴったりである。
小長井のほうでとれるのは、やどかりの身に似ていてやわらかく、殻ごと食べられる。これをとるには、潮が引いたあと、潟の表面を手ではねのけたり、がたぐぁで掘ったりすると、無数の穴が現われる。その穴に習字用の筆を一本一本さしこむと、敵が来たと思ってはさみではさむので、そこを引きあげてとる。引きあげ方が悪いと二度とかかってこない。
出典:月川雅夫 他. 日本の食生活全集 42巻『聞き書 長崎の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.48-49