ふなの甘露煮

連載日本の食生活全集

2020年09月11日

聞き書 長野の食事 佐久平の食より

九月に入ると、ふな田から水揚げしたものを、網で囲って、池の清水でしばらく泥抜きをする。
お祭り、運動会にはどこの家でもふなを煮る。持ち寄って味くらべをしながら、おいしく煮る方法をたずね合う。
醤油、酒、砂糖を煮たてた中に、ふなを丸ごと入れ、煮たつまで強火にし、あとは弱火で汁がなくなるまで煮つめる。
煮る前に塩をふってぬめりを落とすと、生ぐさみが抜ける、大根をなべ底に敷いて煮るとこげつかない、煮あがったところに濃いお茶をかけると苦みが抜ける、砂糖ははじめから入れないで、煮あがる寸前に入れると一つずつころっと煮える、ふたをしないで煮るほうが味も煮あがった姿もよい、などなど、長い経験のなかで得た技術を駆使し、家によって煮方も味も違う。
調味料は、ふな三〇〇匁に醤油一合三勺、砂糖七〇匁、酒一合が一般的な分量で、このほか、水あめやしょうが汁を入れる人もいる。砂糖は、赤ざらめを使うとよいというが、手に入りにくい。
ふなを長いこと清水につけておくとやせてこわくなるので、十月いっぱいくらいには煮て食べてしまう。

 

出典:向山雅重 他. 日本の食生活全集 20巻『聞き書 長野の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.209-209

関連書籍詳細

日本の食生活全集20『聞き書 長野の食事』

向山雅重 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540860768
発行日:1986/12
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

十州に境を連ねる信州の山と川、四つの平の恵みを生かしきる女の技を収録。木曽のすんき漬、東信の野沢菜漬、中信の稲扱菜など、特徴ある野菜がいっぱい。海こそなけれよろず足らわぬことなき暮らしと食を聞書きする。
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