くるみ雑煮

連載日本の食生活全集

2020年12月14日

聞き書 岩手の食事 三陸沿岸の食より

元日の朝は、どこの家でも雑煮をつくる。雑煮のだしは煮干しが基本であるが、河口で釣ったおげえ(うぐい)や、さば、どんこなどを焼干しにしたものでもだしをとったりする。一年のはじめのごちそうだから、張り切ってできるだけおいしいだしをとる。具は大根、にんじんのひきな(せん切りにしたもの)、ごぼうのささがき、せり、凍み豆腐などが入り、少しぜいたくをするときは、かまぼこや、さけのはらこが入る。
下閉伊郡、宮古一帯にかけての雑煮の食べ方の特色は、必ずくるみだれがつくことである。つまり、雑煮わんのとなりに猪口をおき、それに入れたくるみだれをつけて、もちを食べるのである。二つを合わせてくるみもちともいう。くるみは、秋口に庭先や山でとっておいたものを使う。金づちで割り、竹串でていねいに中身をとり出し、殻やごみを除いて、すり鉢でねっとりとなるまでする。これに白砂糖を入れてさらによくすり、それに雑煮のだし汁か、または醤油を水で割って吸いものぐらいの塩加減にして、はしの先からたらたらとしたたり落ちるていどにのばす。
一杯目の雑煮もちをまず食べて、そろそろ飽きたころ、おわんの中のもちをちぎって猪口の中のくるみだれをくぐらせて食べる。沿岸地方ではおいしさを表現することばに「くるみ味がする」といういい方がある。魚でも、油がのって、こっくりした味のものを食べたようなときに、くるみ味がする、というぐらいだ。
このように、ぜいたくで手間のかかる調理法を一年の初めにして、豊かさを満喫しようとするのであろう。家によっては、ひきな雑煮にはもちを入れないで吸いものとして右側に並べ、もちわんにはもちだけ入れて左側につける。もちわんの味つけは、吸いものよりやや濃くする。その手前に、くるみの入った猪口を出す。いっそうていねいなやり方である。この場合、くるみの味つけは砂糖だけにして、水でのばす。

写真:くるみ雑煮の例
左・雑煮(大根、にんじん、ごぼう、しいたけ、油揚げ、凍み豆腐、はらこ、あわび、のり、焼いたもち)/右・くるみだれ

 

出典:古沢典夫 他. 日本の食生活全集 3巻『聞き書 岩手の食事』. 農山漁村文化協会, 1984, p.251-253

関連書籍詳細

日本の食生活全集3『聞き書 岩手の食事』

古沢典夫 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540840227
発行日:1984/09
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 376頁

県北の雑穀文化圏・県央の粉食文化圏・県南のもち文化圏・海の幸豊かな三陸沿岸・山の幸の奥羽山系の5地域に分け、地域毎に紹介。日本人の食の原型を見ることができる。
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