聞き書 山口の食事 長門山間の食より
小雪が舞い薄氷がはる谷川にも、二月下旬から三月初旬になると春は近づいている。木をこった(伐った)山からの帰りなど、谷川の清流の中でよくていらぎを見つける。まだ小さい。冷たい水を分けるようにして、ていらぎを摘む。
小ざる一杯のていらぎを熱湯でさっとゆでると、ほんの一にぎりほどになる。十分しぼった豆腐をすり鉢でよく当て、味噌と砂糖を少し加えてなめらかになったら、ていらぎをあえる。食卓に添えて、すぐそこまで来ている春をかみしめる。
日ざしが暖かくなるころにはていらぎも大きくなり、味噌汁の実やおひたしにたっぷりと使う。
出典:中山清次 他. 日本の食生活全集 35巻『聞き書 山口の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.136-137