聞き書 奈良の食事 十津川郷の食より
■山菜摘みの弁当―とう菜ずし
毎日のように向かい山の刈り場(牛の餌や肥料にする草を刈る場所)で、だれそが這みょうる(這っている)のが見えだすと、農作業のあいさに女衆はたった一人ででも、ときには数人連れだって山菜摘みに山へ入る。弁当は、ほどよく漬かったとう菜に麦飯を包みこんだとう菜ずしである。両手にはみ出すほどのどいらい(大変)大きいのを、二つ三つ持つ。
ぜんまい、わらび、ふき、たらの芽、わさび菜、くさぎな、ごんぱち(いたどり)、よもぎなどがとれる。果無山系の懐は深く、山の恵みは豊富である。昼どき、冷たい谷水の流れる日陰でほおばるとう菜ずしは醤油かすの香りがし、少し酸味のある漬け菜の味が格別うまい。
出典:藤本幸平 他. 日本の食生活全集 29巻『聞き書 奈良の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.260-262