呉豆腐で新暦の盆を迎える─晴れ食・行事食

連載日本の食生活全集

2021年07月07日

聞き書 佐賀の食事 有田(焼きものの里)の食より

お盆
有田には、横浜、神戸、長崎などに店をもった人もおり、また海外とのつながりがあり、文明開化が早い。伊万里町、二里村、大川内村、大山村、曲川村、有田町と明治のはじめから新暦である。どこの家でも仏さま用の塗りもののお膳一式があり、お供えは仏さまの人数分に餓鬼仏さん(餓鬼道に落ちた亡者。転じて無縁仏)の分を加えて用意する。山徳は浄土真宗で、次のようにお供えをする。
七月十三日は、米の粉を水で練って小さく丸めてゆでた迎えだごを供える。これは精霊流しの日に流すまであげておく。
十四日の朝はごはん、豆腐の味噌汁、奈良漬。この日に新しい奈良漬の口を開けるのである。昼は冷やしそうめんにごま醤油を添えてあげる。夜はごはん、揚げ豆腐(厚揚げ)やこんにゃく、かぼちゃ、三度豆(さやいんげん)を入れた山の幸の煮しめ、呉豆腐の刺身、もやしのごま醤油あえとなる。呉豆腐は、豆乳に本くず粉を入れて気長に練ったもので、固まるまでの時間もかかり、手間ひまのいるごちそうである。
十五日の朝は、ぼたもち、新漬の梅干しにお茶である。昼は、もち腹だからごはんはあげず、新じゃがいもの丸ゆでとお茶だけ。夜は、昼を軽くあげているから夕方早めにする。がんもどきと高野豆腐、しいたけの含め煮、とうがんのはりはり、混ぜごはんをつくる。とうがんは薄切りにして甘酢であえたもの、混ぜごはんは、白いごはんの上ににんじん、ごぼう、こんにゃくなどの味つけした具をきれいに盛り上げ、その上に錦糸卵を飾ったものである。それにねいも(水いもやはすいも。里芋の一種で茎を使うもの)の味噌汁を添える。
十六日は精霊流しで、十三日にあげた迎えだごと十五日の夕方あげたものを何にも包まずに有田川まで抱えて行き、そのまま川に放り投げる。有田川は黒髪山から流れ出た急流で、お供えものなどは一雨降ればきれいに洗い流され、またもとの有田川となる。

写真:お盆につきものの呉豆腐

 

出典:原田角郎 他. 日本の食生活全集 41巻『聞き書 佐賀の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.233-235

関連書籍詳細

日本の食生活全集41『聞き書 佐賀の食事』

原田角郎 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540910043
発行日:1991/11
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

稲作と茶と磁器発祥の地佐賀は、クリーク農業の地。佐賀平野の米とクリークの魚が食の基本。玄界灘と有明海という二つの海からは対馬暖流と干潟の恵みが四季の食膳をにぎわす。
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