聞き書 奈良の食事 吉野川流域の食より
■夏祭り
田植えが終わり、田の草取りを二、三回して、ちょうど一服つきたいころに七月十日の夏祭りがくる。
八、九日には小麦やもち米を搗く。小麦を唐臼(足で杵を踏んで搗く臼)で搗いて砕き、もち米を同量加えて蒸して搗く。小麦もちは三臼ほどつくるが、小麦を搗くのが大変で、米と違って力のいる男仕事である。家々では、「まだ搗き足りんのか」と男衆がおかちゃんといい争いになるので、「けんかもち」とも呼ばれる。
祭りの前日には柿の葉ずしもつくる。塩さばを薄くすいて、にぎったすし飯の上にのせ、柿の葉に包んで押しをする。一升で六〇~七〇個ぐらいににぎるが、各家々で四升ぐらいつくる。すし飯に、塩さばの味と柿の葉の香りが移って独特の風味をかもしだす。
写真:柿の葉ずしづくり
さばずしを柿の葉に包んで押し箱に詰め、一晩ねかす。
出典:藤本幸平 他. 日本の食生活全集 29巻『聞き書 奈良の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.213-215