聞き書 栃木の食事 日光山間(栗山)の食より
秋は収穫とその無事を祝うお日待ちが続く。八月一日の八朔、八月十五夜、九月九日の初くんち、九月十三夜、九月十九日の中くんち、十月十日のじじんさま(地鎮さま)、十月二十日の恵比須講などである。八朔にはばんだいもち、中くんち、じじんさまにはきびもち、恵比須講には、里芋、にんじん、大根、しいたけ、豆腐の煮しめ、豆腐のでんがく、つぐみの焼き鳥などとそれぞれ変わりものをつくる。宵祭りあるいはお日待ちの晩に必ずつくるのが山鳥を使ったしっぽくそばである。収穫直後のひきたてのそばは、いちだんと風味があり、また、秋から冬にかけて山鳥は脂がのっている。
明日はお日待ちというときには、女たちは野良仕事を早めに切りあげて帰ってくる。とれたてのそばを袋からとり出すと、いすす(石臼)にかけてそばひきにかかる。子どもたちが退屈そうにしていると「おめえ、いすすを回せ」といって手伝わせる。母親はふるいでそば粉をふるう役。そばはていねいに三度ひき直してふるい、それからおもむろにそば打ちにとりかかる。おいしいそばを食べるには時間がかかる。それができるのも、農作業がすべてすんだお日待ちのときだからである。
写真:そばのいすすひき
ひき鉢にいすすをのせ、2人がかりでひく。
出典:君塚正義 他. 日本の食生活全集 9巻『聞き書 栃木の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.95-95