聞き書 愛媛の食事 高縄山塊(鈍川)の食より
いのししの大きな骨は、大きなまさかりでぶつぶつと切ってゆく。大なべの水の中に入れて煮こむが、途中であくをすくいとってすてる。三〇~四〇分煮たら、砂糖、塩、醤油で味をつけて、この骨を全部大皿に引きあげる。このなべにあらかじめ大皿に盛って用意しておいたしし肉、こんにゃく、しいたけ、ねぎ、しゅんぎく、ごぼうなどを適当に入れて煮る。
材料が煮えるまで、先ほどの骨をしゃぶる。なんともいえない底味のある骨しゃぶりである。
骨を煮ることを「骨炊き」というが、長く煮こんだ骨のだしの味が肉や野菜をいっそうおいしいものにするのか、ししなべはまた格別である。
どんぶりにしし肉と野菜をたくさん入れ、その上にいのししの汁をたっぷりかけて食べるので、ししなべのことを「しるかけ」ともいう。また、いのししのぼたん色の鮮麗な肉を大皿に花形に盛ると、脂の部分が白く縁をとり、大輪のぼたんの花を思わせるので、「ぼたんなべ」ともいっている。
写真:ししなべは、冬のなによりのごちそう
出典:森正史 他編. 日本の食生活全集 38巻『聞き書 愛媛の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.284-286