ふなのこぶ巻きとこぐり

連載日本の食生活全集

2021年12月01日

聞き書 長崎の食事 諌早・西東彼杵の食より


秋から冬にかけて、ふなは脂がのっている。こぶ巻きには、このようなふながおいしい。冬は掘割の泥の中にもぐっているので、とったふなは二、三日きれいな水に放して泥をはかせる。あるいは、秋の水落としのときにとったふなを、しっぽを切って目印にして、ふな川や共同の溜池に放しておいたものをとってくる。
ふなのこぶ巻きは、ふな一〇ぴきに野菜こんぶ(煮もの用こんぶ)五尺ぐらい。こんぶはさっと水洗いして、ふきんで水気をふき、しばらく軒につるして半乾きにする。ふなは頭のつけ根のところを包丁の先で突いて殺しを入れる。うろこをつけたまま、頭のほうから、包帯を巻く要領でこんぶをふなのからだに合わせてしっかり巻いていく。その上を、ほどけないように、ゆうごう(ゆうがお)の干したもの(かんぴょう)や竹の皮をさいたもので巻いて結ぶ。
大きな鉄なべの底に竹の皮を敷き、大根の大きいのを二本、厚さ一寸ぐらいの輪切りにしておき、ふなをのせる。その上に、しょうがの薄切りを散らす。茶わん一杯から一杯半を一升ぐらいの味噌を水でといて一度こし、砂糖を大さじ一杯、酒があれば一合ぐらい入れて煮汁を用意する。この煮汁は、はじめ半量ほど入れ、途中でつぎ足していく。火は煮たつまでは強火にし、あとは弱火にして半日から丸一日煮る。醤油、水あめを加えてもよい。
ふなは長く煮ているので、よく味がしみこみ、うろこも骨もやわらかくなっている。また、下の大根は、こんぶ、ふな、味噌の味がなじみあい、口に入れるとすぐとろけるようにやわらかくておいしい。こぶ巻きは適当に切って盛りつける。これは冷たいものがおいしい。
手間のかかるこぶ巻きにしないで、ふなと大根を同じように炊いたものを冷たくして食べるのを「こぐり大根」という。煮こごった大根という意味であろう。冬のいろりでとろとろと煮つめて、べっこう色になった大根の味わいと冷たい感触は、子どもや年寄りにも喜ばれる。また、外に働きに行っていた大きい息子や娘が久しぶりに帰ったときに、なによりもなつかしがるごっつうである。正月のおせち料理にも欠かせない。
生のふなでなく、もつを出したふなに竹串を口から尾に向けて突きさし、いろりでひぼかして、わら巻きにさし、天井や軒につるして保存しておく。これを煮たものも、正月や宮日(氏神さまの祭り)のごっつうである。ふなを串からはずしてなべの底に入れ、上に野菜やこんぶをのせ、かぶるくらいの水を加え、途中で醤油と砂糖少しで味つけしながら煮こむ。

写真:こぐり大根
冬は煮こごりになる。

 

出典:月川雅夫 他編. 日本の食生活全集 42巻『聞き書 長崎の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.50-51

関連書籍詳細

日本の食生活全集42『聞き書 長崎の食事』

月川雅夫 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540850011
発行日:1985/4
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 378頁

海岸線が全国で一番長い県・長崎。離島が群れなす長崎。中国と南蛮の影響。さつまいもの料理が一番発達している長崎。さまざまな長崎のさまざまな料理の全貌を紹介する。
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