聞き書 岩手の食事 奥羽山系の食より
「沢内三千石お米の出どこ、枡ではからねぁで箕ではかる」と歌にうたわれる沢内、湯田の米どころでも、ふだんは、雑穀と大根入りのかで飯を食べている。そこで、年越しや正月その他の行事には、なにをおいても、もち、白米飯、どぶろくなどをつくり、食べ、飲むのがこのあたりの風習であり、楽しみである。このときのために、ふだんはできるだけ米を節約し、かでを多く入れる。金持ちの家ほど、かでを多くするという。
■暮れ
十二月二十八日はもち搗き。暮れの二十四日か二十五日ごろ、すす払いをして、二十八日はもち搗きである。二十九日は「苦の餅」といって嫌われ、二十八日に搗けない家では三十日にまわした。朝から大きなせいろを重ね、もち米を蒸し、一日がかりで搗く。
一臼目は、神仏に供える鏡もちと山の神に上げる一二のもちなどをこしらえ、二臼目は小豆やくるみ、ごまの衣をつけて朝食に食べる。親せきなどへの正月礼、年始回りにも鏡もちを持っていくので、もちはたくさん搗く。
大みそか、年取り。年越しのごちそうは、豆腐、野菜、きのこ、山菜、川魚など、家でとれたものが中心の手づくり料理である。煮しめを中心に料理は五品以上とする。年に一度の年越しだから、正月中に七種の品を食べるとよいといわれており、その日はかど(生にしん)を一ぴきずつつけ、白米飯にとろろで年取りをする。
写真:もちのいろいろ
左から:十二のもち(小正月)、松のもち(同)、水のもち、釜のもち(小正月)、松のもち(大正月)、鏡もち、水のもち、釜のもち、つかだのもち
出典:古沢典夫 他編. 日本の食生活全集 3巻『聞き書 岩手の食事』. 農山漁村文化協会, 1984, p.280-283