聞き書 岩手の食事 県北の食より
このころ、零下二〇度を超す厳寒が訪れる。鶏のとさかも、しもやけになるほどだ。この寒さを利用して、寒もち、凍み豆腐、凍み大根、凍みじゃがいも、ひえや米の寒ざらし粉などをつくる。これらは、冬のごちそうとなるばかりでなく、保存がきくので、春から農繁期を乗りきるためになくてはならない大切なものである。
まず小正月には、水分を多めにしたもち(米、あわ)を搗いて切りもちとし、わらを編んだつとで吊るして寒ざらしもちとする。凍み豆腐は一冬に四回くらいつくる。多いときは、一回に大豆を一斗も使う。大豆一升から豆腐六丁、これから七二個の凍み豆腐ができる。夕方から温度が下がるような日に、きめ細かい良品ができる。凍み大根はくず大根を切ってゆでて凍らせるものだが、縄で結んで川水にさらし、白くしてから陰干しにする。凍みじゃがいもとは、くずいもをいったん凍らせて皮をむき、赤い水(あく)が出なくなるまで水をかえながら一週間ほどさらして、縄に通して軒下に吊るし、干してから澱粉をとるもので、もちのとり粉にしたり、小麦粉と練り合わせて汁の実にしたりする。
ひえや米の寒ざらし粉は、米や白干ひえを一昼夜水にうるかし(ひたし)、ざるに上げて水を切ってから、土間の隅やひさしの下で凍らせてつくる。これを乾かしてはたく(臼で搗く)とでき上がり。これらは、浮き浮きだんごや彼岸だんごにしたり、熱湯でといてくず湯がわりに病人、産人(さんとう)、赤子にのませたりする。からだが温まるので、風邪にもよい。神楽や、えんぶり(田植えのしぐさをして豊作を祈る行事)が村々にまわってくるのもこのころで、これも楽しみの一つである。また、主婦やおばあさんたちは、ささやかなどっぴき(一銭がけのくじびき)に夢中になったりする。
写真:凍み豆腐
出典:古沢典夫 他編. 日本の食生活全集 3巻『聞き書 岩手の食事』. 農山漁村文化協会, 1984, p.23-24