花まんじゅう

連載日本の食生活全集

2022年02月28日

聞き書 岩手の食事 県北の食より


ひなまんじゅう、花だんご、花もちなどとも呼ばれ、三月三日のおひなさまに供えるひな菓子である(口絵五ページ参照)。岩手県内でも、北上川流域の米作地帯である盛岡周辺、紫波郡、稗貫郡、花巻市とその隣りの遠野市周辺だけでつくられている。
この地域一帯は盛岡城をはじめ、いずれも旧南部藩の城下町であり、そのうえ郷土玩具の代表である附馬牛人形(花巻人形、口絵五ページ参照)があり、土で焼いた素朴なおひなさまがこの近在の農家に買われて、どこの家でも飾られる。この日、子どもたちは晴れ着を着せてもらって隣り近所や親せきをたずね、おひなさまを拝んでは花まんじゅうをもらうのが、何よりの楽しみになっている。
まんじゅうのつくり方のこつは、それぞれの地域で多少違うが、ここにあげたつくり方は上閉伊郡宮守村西風部落のものである。
まず、うるち米の粉を汁わん三杯に、もち米粉同じく一杯をよく混ぜてふるう。大きなしとね鉢(粉をこねる木鉢)に粉を入れ、熱湯を注ぎ、はし四本ぐらいで手早くかき混ぜる。はじめは大きなかたまりができるが、だんだんにぽろぽろした状態になってくる。このとき、はしでほぐすように混ぜることが大切で、やわらかすぎたといって粉をあとから足すのは一番悪い。乾いたふきんを上からかけ、湯気がねり粉に落ちないようにして、熱いうちにふたをして一晩ねかせる。
翌日再びこねるが、ここで力を入れてよくこねればこねるほどおいしくできる。直径約三寸の偏平状にまとめ、まん中をへこませて、たっぷりの湯でゆでる。あまり小さく薄くすると、水っぽくなる。くつくつ音がしたら、はしでかき混ぜて、くっつかないようにする。全体が浮き上がったらたっぷりの水にとるが、水にとってすぐ沈むのはゆで方が足りない。ゆらりと沈んでいくくらいのゆで加減がかんどころである。手にとってみて、中が人肌ぐらいになるまで冷めたら、水からとり出し、またしとねておく。まだ固めのうちに、着色する分を四分の一くらいとり分け、残りはさらに水を加えながらこねる。ゆっくりとひっぱったとき、七寸~一尺によくのびる状態までこねる。途中で切れるようでは、まだこね方が足りない。
とり分けただんごに、桃、緑、黄、柿色の食用色粉をつけ、白だんごと同じくらいのやわらかさにする。緑は葉っぱにするので、やや固めにする。
だんごの皮のつくり方は、まず白だんごを手のひらでまとめ、その中に色だんごを包んでまとめていくと、ぼかした色の皮ができる。その中へあんを入れて、木細工用の道具か、あるいははしで形をつくっていく。菊、梅、桃、柿、栗、松、ゆず、なす、みょうがなどがふつうで、ちょうど菓子屋のねり切りに似ている。
あんのつくり方は、小豆六合、ざらめ約八〇匁と白砂糖約二〇〇匁に塩小さじ二杯を入れる。ふつうは、粒あんよりこしあんのほうが多い。
この生あんの練り方がまたかんじんで、砂糖を入れて、火にかけてから約一時間も練るのである。あんがぽさぽさと水気がなくなるまで練らないと、日もちが悪いばかりでなく、一日もたつとまんじゅうの中から水気が出てきてしまつが悪い。
節句の前日、子どもたちは待ちこがれて祖母や母からこのつくり方を教えてもらい、味見をする。こうして、自然につくり方のこつを覚えていくのである。

 

出典:古沢典夫 他編. 日本の食生活全集 3巻『聞き書 岩手の食事』. 農山漁村文化協会, 1984, p.93-96

関連書籍詳細

日本の食生活全集3『聞き書 岩手の食事』

古沢典夫 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540840227
発行日:1984/9
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 376頁

県北の雑穀文化圏・県央の粉食文化圏・県南のもち文化圏・海の幸豊かな三陸沿岸・山の幸の奥羽山系の5地域に分け、地域毎に紹介。日本人の食の原型を見ることができる。
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