聞き書 埼玉の食事 川越商家の食より
■彼岸
彼岸の入りの日には菩提寺へしきび(しきみ)と花を上げ、親せきや旧知の家へもしきびを持っておまいりに行く。
この日は朝、米の粉でおだんごをつくって仏さまへ上げ、お三時にお下がりといって、焼いてから甘から醤油(砂糖醤油)につけて食べる。近くの赤松公園へもち草(よもぎ)を摘みにゆき、草もちをつくることもある。
お中日は前の晩から小豆を煮ておき、おかみさんは当日朝四時ごろから起きて、ねえやと一緒におはぎをつくる。できあがると、おかみさんがお灯明と一緒に仏さまに上げる。おはぎは全部で一〇〇個ほどつくる。町内頭が店のま新しい印半てんを着て、このおはぎを親せきや町内へお配りにいってくれる。
この時期は、親しい間柄で盛んにおはぎや五目ずしのやりとりがあり、「不出来ですが、仏さまへお上げください」といったあいさつがそのたびに交わされる。
明けの日は、たいてい五目ずしをつくり、これは手近な親せきへ、ねえやか小僧が届けにゆく。仏さまのお下がりを夕食のときに一同で食べる。
写真:お彼岸のおはぎ
出典:深井隆一 他編. 日本の食生活全集 11巻『聞き書 埼玉の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.261-265