山菜がお膳に―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2022年03月30日

聞き書 新潟の食事 魚沼の食より


三月下旬、雪はまだ多いが、春の気配が濃厚である。雪を利用してぼよ切り(柴木の伐採)のため入会山へ入る。このころから、長い冬ごもりを終えて、戸外での生産のための仕事が多くなる。
このころの日常の食生活は、主食には大根かて飯が多く、ときにはあんぶや、ぞうすいも食べる。汁ものは味噌汁、おかずには野菜の煮もんがよくつくが、ときどき塩漬いわしや塩ますも出る。漬物としてはだいこ漬が、いつも食卓に顔をみせている。
三月下旬のぼよ切りと前後して、味噌煮が行なわれる。できた味噌玉はいろりのひだな(火棚)につるしておく。ふつう三年味噌を食べているが、五年、七年ものの味噌桶が並び、薪木堆が並んでいる家が「だんなさま」である。
四月二十日ごろ、平地の雪が消える。雪の下で春を待っていたものの芽が萌え出てくる。ぜんまい、うど、きのめ(あけびの新芽)など多種多様の山菜が、里から山の奥へと順々に芽を出してくる。春の魚沼の山は山菜の宝庫である。すぐ食べてしまうものと、乾燥や漬物にして冬のため蓄えておくものとがある。早春の山を歩いての山菜とりは楽しいものであるが、よりよいものを一本でも多くとろうとして命を落とす人もいる。痛ましいことである。

写真:春の昼食
上:塩いわし、漬け菜/中:醤油の実/下:大根かて飯、味噌汁(大根とじゃがいも)/膳の外は大崎菜のおひたし

 

出典:本間伸夫 他編. 日本の食生活全集 15巻『聞き書 新潟の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.193-194

関連書籍詳細

日本の食生活全集15『聞き書 新潟の食事』

本間伸夫 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540850257
発行日:1985/8
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 378頁

「炊く」「蒸す」「搗く」「こねる」「焼く」。お米をさまざまに味わい分けてきた新潟県内を六つの食文化圏に分けて、それぞれの地域の豊饒を語ってもらう。
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