聞き書 新潟の食事 魚沼の食より
三月下旬、雪はまだ多いが、春の気配が濃厚である。雪を利用してぼよ切り(柴木の伐採)のため入会山へ入る。このころから、長い冬ごもりを終えて、戸外での生産のための仕事が多くなる。
このころの日常の食生活は、主食には大根かて飯が多く、ときにはあんぶや、ぞうすいも食べる。汁ものは味噌汁、おかずには野菜の煮もんがよくつくが、ときどき塩漬いわしや塩ますも出る。漬物としてはだいこ漬が、いつも食卓に顔をみせている。
三月下旬のぼよ切りと前後して、味噌煮が行なわれる。できた味噌玉はいろりのひだな(火棚)につるしておく。ふつう三年味噌を食べているが、五年、七年ものの味噌桶が並び、薪木堆が並んでいる家が「だんなさま」である。
四月二十日ごろ、平地の雪が消える。雪の下で春を待っていたものの芽が萌え出てくる。ぜんまい、うど、きのめ(あけびの新芽)など多種多様の山菜が、里から山の奥へと順々に芽を出してくる。春の魚沼の山は山菜の宝庫である。すぐ食べてしまうものと、乾燥や漬物にして冬のため蓄えておくものとがある。早春の山を歩いての山菜とりは楽しいものであるが、よりよいものを一本でも多くとろうとして命を落とす人もいる。痛ましいことである。
写真:春の昼食
上:塩いわし、漬け菜/中:醤油の実/下:大根かて飯、味噌汁(大根とじゃがいも)/膳の外は大崎菜のおひたし
出典:本間伸夫 他編. 日本の食生活全集 15巻『聞き書 新潟の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.193-194