山の食べもの

連載日本の食生活全集

2022年04月07日

聞き書 宮城食事 船形山麓の食より

山菜の利用のしくみと食べ方
雪深い鹿原では、無事に冬をすごすため、山ざ(薪の切り出し)、炭焼きなどの山仕事をしながら、山菜やきのこをたくさん収穫して貯蔵しておく。これらは冬の野菜の少ない時期の煮ものやあえものなどに利用し、食卓をいろどる食べものとしてなくてはならないものである。
山の奥はわが家の畑のようなもので、あちこちに生えている山菜を、ひと朝で何貫目と背負ってくるのは、おもに年輩者の役目である。どの家もだいたいとる場所は決まっており、根こそぎとらないということも暗黙のうちに決められている。それでも、偶然大量に収穫できたときは、なににもましてうれしい。
雪解けの三月はじめには、ばっけ(ふきのとう)をはじめ、たらっぽ(たらの芽)、あいこ(みやまいらくさ)、しどけ(もみじがさ)、うるい(おおばぎぼうし)、こごみ(くさそてつ)、ぜんまい、わらび、ふき、みず(うわばみそう)、山うど、たかど(いぬどうな)など、種類も量も豊富である。どの家も、大きな樽に塩漬けしたり、干して貯蔵したりして、冬の煮ものや田植えどきの煮つけ、山仕事の弁当のおかず、日常食のおかずとして利用する。
野草の野ぜり、のびる、なずな、わさびなども、おひたしや味噌汁の実、酢味噌あえなどにして食卓にのせる。
こごみ
ばっけとともに、春一番の雪解けのころの山菜である。生のものはゆでておひたしに、たくさんとれたものはゆでて、もみながら乾燥させる。保存しておき、煮つけやあえものにする。
しどけ
こごみと同じころに出る山菜。おひたしや浅漬の漬物として食べる。
あいこ
四月末ころ国有林に入ると、ひと朝で、多い人でひとしょい(あいこの場合、約一三貫)とれる。とげがあって、ささると痛い。ゆでてそのままおひたしがおいしい。保存用には、長さをそろえて選別し、小束にして塩漬けする。食べるときは塩出しをして、わらび、こんにゃく、凍み豆腐などと煮つけにする。
うるい
生は、味噌汁の実に使ったり煮しめにしたりする。保存用には塩漬、またはゆでて乾燥しておく場合もある。
ぜんまい
たくさんとる人はひとしょい(約一〇貫)になる。ゆでて、もみながら乾燥する。長期保存ができるので、貴重な山菜の一つである。もどして使用し、田植えや祭りどきのごちそうの煮しめや、豆腐とくるみであえものにする。りっぱな精進料理の献立としてもなくてはならないものの一つである。
わらび
馬の餌の萩や草がよく育つように、春先には山焼きをするが、そのあとにわらびが出てくる。山焼きをしたところに生えるわらびは、太くやわらかく、質のよいものがたくさんとれる。種籾用の種俵を背負って、朝飯前の二時間ぐらいで、ひとしょい(約八~一〇貫)とる。
片手にいっぱいになると、山焼きをした灰に根元をつけては、腰に下げたわらで束ねてしょいかごに入れていく。根元を切ると、その部分が時間とともに固くなるが、灰をつけておくとそれを防げる。家に帰ってから、小束に束ねがえをして、元はずし(根元を切る)をする。
ひとしょいを生のまま塩漬にすると樽に二、三本にはなる。煮つけ用、あえもの、おひたしなど、いろいろに利用するが、ごはんの足りないときは、ごはんがてにもする。塩漬わらびは、冬には、里へのおみやげ用にする。
わらびは乾燥保存もする。
みず
沢の湿地に多く出る。生は、おひたし、汁の実にする。また、ゆでてたたいて味噌味にしてごはんにのせて食べるのは、格別にうまい。これを「みずとろろ」と呼んでいる。
山うど
たくさんとれた場合は、塩漬保存する。他の塩漬山菜と一緒に塩抜きして身欠きにしんと煮しめにしたり、醤油漬にしたり、生のものは酢のものとして使う。
ふき
山菜のなかで、一番最後にとる。水ぶき、わたぶき、赤ぶきと種類はあるが、水ぶきが一番おいしい。肥やしけの多い、じめじめしたところに、太いものがたくさん出る。長期保存には、葉をおろし(とり)、生のまま塩蔵する。食べるときは、ゆでて皮をむき、二晩ほどさわしておく(水にさらしておく)。これを煮しめやあえものにする。
わさび
水が豊富できれいな鹿原は、流れ水の湿地にわさびがたくさん生えている。
葉をゆでて、他の山菜とともにおひたしにすると、ぴりっとした辛みがなんともいえずおいしい。またきゅうりをわさびの葉で巻いて塩漬にすると、おいしい漬物になる。葉を粕漬にしたり、味噌に漬けておいたものでおにぎりを包むと、これもまた格別な味である。
根は、すりおろして漬物などにかけたり、大根おろしとともにあえものに使ったりする。あまりりっぱな根はとれないので、利用は少ない。
野ぜり
他の青菜と混ぜておひたしにする。かゆに入れると、香りがよくて青みが美しく、おいしい。

写真:山菜と、その塩漬や乾物
上:〔左から〕たかどと塩漬、わらびと塩漬、干しぜんまい/下:うどの塩漬、あいこの塩漬とあいこ

 

出典:竹内利美 他編. 日本の食生活全集 4巻『聞き書 宮城の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.250-253

関連書籍詳細

日本の食生活全集4『聞き書 宮城の食事』

竹内利美 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540890062
発行日:1990/2
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

米どころ宮城は旧伊達藩以来の米どころで、もちの多彩な食べ方を誇る。三陸海岸では四季いろいろな魚貝がとれ、浜の人たちだけでなく、内陸の人々の食膳もにぎわす。
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