聞き書 滋賀の食事 鯖街道朽木谷の食より
■春祭り
五月十日は宮前坊の迩々杵神社と河内神社の祭りで、五穀豊穣を祈願し、村をあげて盛大に行なわれる。のぼりを立て、神輿を飾るなど、前日から準備され、宵宮には、よもぎもちをあんで包んだ宵宮だんごをよばれてからおまいりする。お灯明のともる宵宮は、人々を不思議なほどにたかぶらせる。
祭りには、親せきの人や嫁に行った娘たちとその家族を招待し、おみやげもいるので準備が大変である。お膳には、こわ飯(赤飯)、味噌汁、平は、ぶりの煮つけにたけのこ、結びこんぶを添え、坪はにんじん、ちくわ、小いも、立ち大根(縦に切りこみを入れて干した大根)の炊き合わせ、小坪はたけのこの木の芽あえ、刺身はさけますのきずし(塩をして酢でしめしたもの)やたこ、焼き魚は若狭の塩もののかれいを買って一夜干しした干がれい。ほかにさばずしと巻きずしの盛り合わせも添える。鉢もんは、焼きさばそうめん、ぜんまいの白あえ、山菜炊き合わせ。すし鉢には二升からのちらしずしを盛る。ごちそうのしめくくりは鶏のすき焼きで、年に一度の祭りとばかり酒もはずむ。
写真:春祭りの膳
膳内:〔上〕坪、さけますのきずしと大根なます、〔中〕小坪、〔下〕こわ飯、味噌汁(たけのこ、わかめ)/膳外:〔左下から時計回りに〕ちらしずし、巻きずしとさばすし、焼きさばそうめん、ぜんまいの白あえ、山菜炊き合わせ、宵宮だんご、徳利(酒)、ちらしずし、若狭の干がれい、たこ、平
出典:橋本鉄男 他編. 日本の食生活全集 25巻『聞き書 滋賀の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.269-272