聞き書 千葉の食事 九十九里海岸の食より
■五月の節句
五月晴れの空に、とんび凧がぐーんぐーんとうなりを響かせながら勢いよく揚がっている姿は雄大である。大人も仕事の手を休め、子どもらと凧揚げに興ずる。
「上総とんび」の名で知られるこの凧は袖凧ともいわれ、九十九里海岸の漁師の作業着「とんざ」から考えついたといわれる。凧絵は大漁祝いに着る万祝の模様をとったと伝えられている。半紙四枚半から一二枚半ほどの大きさで、長い糸目と、うなりをつけて豪快な姿で大空に舞いあがるのが特徴で、この姿を子の成長に結びつけているのであろう。大漁祝い、大漁祈願としても盛んに揚げられる。
初節句の家では、かつおの刺身、煮魚、はまぐりの潮汁などをつくって祝う。
このころ、男たちは時化の間に馴れぬ手つきで田起こしをし、田植えの準備をする。幕張のほうからいも苗屋が自転車にいも苗を積んで売りに来るので、女たちは、いもづる植えをする。このころ、夏野菜の種播きや、かぼちゃ、なすの苗も植える。
写真:端午の節句の祝い膳
折詰:たいの塩焼き、えびの塩焼き、かまぼこ、煮しめ/膳内:わかしの煮もの、てんぷら、かつおの刺身、たこの酢のもの、はまぐりの潮汁/膳外:すし、かしわもち、右の凧が、節句の空に揚げる上総とんび凧。
出典:高橋在久 他編. 日本の食生活全集 12巻『聞き書 千葉の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.27-28