「秋くち」が一年中で一番おいしい―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2022年09月08日

聞き書 和歌山の食事 和歌浦沿岸の食より

天気になって船が出ると、夜のおかずにくちの煮つけが出る。白身で骨が薄く、冷えると汁がこごり、熱い麦飯の上にこごった汁をのせると麦飯の熱で溶けておいしい。
夜―麦飯、くちの煮つけ、大根と揚げの煮もの、漬物
くちは、醤油に水を少し入れて煮たて、魚を一ぴきずつ入れてふたをして煮る。「秋くち」といって、一年中でくちの一番おいしい時期である。秋は台風が多く、漁に出られないこともよくある。夕食に魚があると子どもたちは喜び、うれしい夕食になる。
大根の煮ものは、なべに水といりこ、せん切りの揚げ、厚切りの大根を入れて炊き、煮えたら砂糖少しと塩、醤油で味をつける。漬物を大鉢によそって出す。
古漬がたくさんたまってくると、細かくきざんで水につけて塩出しをする。なべに水を入れて沸騰したら生のえびじゃこを入れ、塩出ししたきゅうりやなすの古漬を加える。漬物がやわらかくなったら砂糖を少し入れて、塩と醤油も入れて味をつける。

写真:秋の夕食
麦飯、大根と揚げの煮もの、くちの煮つけ、こんこ

 

出典:安藤精一 他編. 日本の食生活全集 30巻『聞き書 和歌山の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.101-103

 

関連書籍詳細

日本の食生活全集30『聞き書 和歌山の食事』

安藤精一 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540880582
発行日:1989/2
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5判上製 380頁

かつおの一本釣り漁で活気づく田辺湾、黒潮に乗ってくるまぐろ、鯨などが食卓をにぎわす熊野灘、ことあるごとにもちを搗き、すしをつくる紀ノ川流域など紀州の食の全貌。
田舎の本屋で購入

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