聞き書 熊本の食事 県南の食より
麦の種播き、いも掘り作業に追われるなかで、八代平野の龍峰地区の主婦は冬じたくをし、その合い間に、正月に子どん(子ども)たちに着せる綿入り(袖なし)づくりにも精を出す。
寒さもきびしい十二月に入ると、藺田植え(藺草苗の植付け)の準備にとりかかり、男も女も年寄りも、朝早くから夜おそくまで、火の気のない土間に座って藺苗を割る。一日分の藺苗の準備ができると、若夫婦は昼間、藺田植え作業に入る。水田に薄く氷が張る田もあるが、田んぼに入るときは、はだしで、氷を割りながらていねいにい苗を植えつけていく。あまりの冷たさに、しびれた手足をときどき焚き火で暖めながら作業を続ける。藺田植えは正月前までに終わらせねばならない。
正月がすぎると、家族総出で焚きもん(薪)とりに出かけ、いのえない(かつげない)子どんたちは縄で引いて下る。冷えきったからだで家にたどり着き、ふかしたてのからいも(さつまいも)や焼きたてのあわもちを食べて、ほっと一息つく。そして、また山へと出かけていき、一日に二、三回は往復する。これが二月の末まで続く。
■昼―三穀飯、工夫をこらしただご汁
新たに三穀飯を炊き、しゃあ(おかず)のだご汁が、冷えたからだを温めてくれる。打ちあげためんを手でつん切って(ちぎって)、醤油味の汁の中に入れていく。これに対し、包丁を使ってめんに切るのが、きりだご汁で、これには小豆を入れる。ほかにのっぺ汁(くずを水溶きして入れ、とろみをつけたもの)やけんちん汁と、汁ものにも工夫をこらす。
写真:冬の昼食
飯台:三穀飯、座禅豆、つん切りだご汁(にんじん、大根、里芋、ごぼう)/台の外:たくあん
出典:小林研三 他編. 日本の食生活全集 43巻『聞き書 熊本の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.238-240