聞き書 大阪の食事 和泉海岸の食より
岸和田市周辺は、海岸部、平坦部、丘陵部、山間部と地形的にはすべてそろっている土地柄で、海のものも山のものも、現金さえあれば手に入れることができる。
海岸部の泉南郡春木町は、少ない耕地に米、麦を、海岸の砂地に、さつまいも、じゃがいも、なんきん(かぼちゃ)、きゅうり、水なすび(水分の多い丸形のなすび)などをつくる畑漁師(半農半漁)の町である。
一方、岸和田市の浜七町(中町、大工町、中之浜町、紙屋町、大手町、中北町、大北町)は、打瀬網漁を主とする専業漁家がほとんどで、耕地は全くないので、基本食は魚を売って買う。基本食は、米、麦、いもから成り立っている。いずれも購入する一方なので、価格の安い外米を買い、いもを食べる割合も結構多い。以下、おもに浜七町の専業漁家の基本食のとり方を紹介する。
沖の膳(漁のさい、船でとる食事)には、白飯を持っていく。米は値がはるが、麦を混ぜて炊くとすえやすい(腐りやすい)し、おなかがすぐへって力がでない。打瀬で、漏斗網七網、桁網一四丁を引き揚げるにはなによりも力がものをいう。「食い力が力になる」。白飯はぜいたくではなくて労働源なのである。
冬の不漁のときは現金が入らなくて、米を買うのに困ることがある。そんなときのために家の者は、始末(節約)をする。さつまいもが出回るころは、蒸すかゆでるかして、ごはんのかわりにしたり、子どものおちん(おやつ)にしたりする。なんきん、じゃがいも、里芋などもおなかの足しになるので、最盛期のときに購入し、よく食べる。
小麦粉は半斤入りの紙袋でときどき買い、だんご汁やてんぷらの衣に使う。そうめんは箱入りで買い、冷やしそうめんにしたり、にゅうめんにしたりして食べる。
基本食で最も多い食べ方は、白飯、冷やごはんに熱い番茶を入れて炊いた「入れがゆ」、白がゆにさつまいもを入れた「いもがゆ」、蒸しいも、冷やごはんに蒸したさつまいもをのせ、お茶をかけた「いも茶」、入れおみ(味噌味のぞうすい)、かきもち茶(かきもちの茶漬)などである。
写真:いも茶
冷やごはんに蒸しいもをのせて番茶をかける。冬の朝、からだを温めるのによい。
出典:上島幸子 他編. 日本の食生活全集 27巻『聞き書 大阪の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.308-310