ゆでたかにをたらふく食べる――日常の食生活

連載日本の食生活全集

2023年02月28日

聞き書 福井の食事 越前海岸の食より

昼――麦飯、味噌汁、へしこの焼いたもの、漬物
味噌汁の実には五月いも(じゃがいも)とわかめ、大根の千六本とねぎとおからなどをよくするが、昼でも毎日つくるわけではない。おからの入った汁は、からだが温まる。
海が荒れて魚が手に入らないときは、さばやいわし、いかなどのへしこを焼く。一日に一、二回は魚を食べないとごはんを食べた気持にならない。へしこは魚のぬか漬で、年中つくっておくが、とくに冬はよく食べる。ぬかの焼けるにおいが香ばしく、食欲をそそる。
学校へ持っていく弁当は、麦飯と梅干しかたくわんだが、寒中にもちを搗いてからは、もちばかりである。「おぼろ」といって、もち米とうるち米を半々に混ぜ、春に摘んで、ゆでてから乾かして保存しておいたよもぎの入ったもちである。焼いて醤油を塗ったりきな粉をつけたり、砂糖を少しはさんだものを二つに折って新聞紙にくるみ、風呂敷に包んで腰につけていく。おなかがすくと、授業中でも少しずつちぎって食べてしまうこともある。
漁に行くときの弁当は、麦飯とたくわんともちである。ごはんを入れる容器は「沖びつ」といって、厚めのへぎでできている。木でできているから海に浮く。そのため、難船しても食べることができるし、海に放り出されたときにつかまることもできる。沖へ行く者は、「もったいない沖びつをまたぐな」ときつくいわれ、またいだり足にさわらせたりは絶対にしない。正月には沖びつに鏡もちを供える。
船上でのおかずは、とった魚をぶつぶつ切ったり刺身にしたりして、生のままで醤油をつけて食べる。もちは船の中においてあるあんかのような火入れで焼く。火種は毎日容器に入れて持っていく。

写真:沖びつと船上食
上:沖びつ(右)からごはんを入れる容器をとり出したところ。沖びつの中には茶わんなどが納められるようになっている/下:たくわん(左)。まないたの上のとれたてのはたはたや、みずべこを料理してお菜にする。

 

出典:小林一男 他編. 日本の食生活全集 18巻『聞き書 福井の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.145-148

関連書籍詳細

日本の食生活全集18『聞き書 福井の食事』

小林一男 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540870187
発行日:1987/6
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 384頁

木の芽峠を境に嶺南と嶺北に分かれる福井県は越前と若狭の二国から成る。報恩講を開いては食を共にして絆を深めあう越前、海の幸と山の幸がともに食膳にのぼる若狭の国。
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