聞き書 福井の食事 越前海岸の食より
■昼――麦飯、味噌汁、へしこの焼いたもの、漬物
味噌汁の実には五月いも(じゃがいも)とわかめ、大根の千六本とねぎとおからなどをよくするが、昼でも毎日つくるわけではない。おからの入った汁は、からだが温まる。
海が荒れて魚が手に入らないときは、さばやいわし、いかなどのへしこを焼く。一日に一、二回は魚を食べないとごはんを食べた気持にならない。へしこは魚のぬか漬で、年中つくっておくが、とくに冬はよく食べる。ぬかの焼けるにおいが香ばしく、食欲をそそる。
学校へ持っていく弁当は、麦飯と梅干しかたくわんだが、寒中にもちを搗いてからは、もちばかりである。「おぼろ」といって、もち米とうるち米を半々に混ぜ、春に摘んで、ゆでてから乾かして保存しておいたよもぎの入ったもちである。焼いて醤油を塗ったりきな粉をつけたり、砂糖を少しはさんだものを二つに折って新聞紙にくるみ、風呂敷に包んで腰につけていく。おなかがすくと、授業中でも少しずつちぎって食べてしまうこともある。
漁に行くときの弁当は、麦飯とたくわんともちである。ごはんを入れる容器は「沖びつ」といって、厚めのへぎでできている。木でできているから海に浮く。そのため、難船しても食べることができるし、海に放り出されたときにつかまることもできる。沖へ行く者は、「もったいない沖びつをまたぐな」ときつくいわれ、またいだり足にさわらせたりは絶対にしない。正月には沖びつに鏡もちを供える。
船上でのおかずは、とった魚をぶつぶつ切ったり刺身にしたりして、生のままで醤油をつけて食べる。もちは船の中においてあるあんかのような火入れで焼く。火種は毎日容器に入れて持っていく。
写真:沖びつと船上食
上:沖びつ(右)からごはんを入れる容器をとり出したところ。沖びつの中には茶わんなどが納められるようになっている/下:たくわん(左)。まないたの上のとれたてのはたはたや、みずべこを料理してお菜にする。
出典:小林一男 他編. 日本の食生活全集 18巻『聞き書 福井の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.145-148