聞き書 茨城の食事 県央畑作地帯の食より
農作業は忙しくなり、夜なべもおそくまで続く。麦の中耕、さつまいもの床つくり、じゃがいも植え、桑の帯(結束)ときと、急に仕事がふえる。朝、夜が白むのが早いので、起きて手を洗い、顔を洗っても、はっきり目が覚めない。
■夜
農作業が終わるとへとへとに疲れ、野良からの帰りには両足がふるえる。夕食のしたくはおっくうである。朝と同じに、ごはんと味噌汁を炊く。おかずにはあまり手間をかけず、買ったものが多くなる。
春先、「忙しくなるから買っておけ」といわれ、塩ますを何本も買いこむ。切身にして焼けばよい。三食のおかずを塩ますですます日もある。このほか切りこぶ、くずこぶ、するめいかの足も買っておく。袋に入った切りこぶを、きざんだ油揚げと一緒に煮たり、いかの足をだしに、くずこぶを煮たりする。
子どもたちが、どじょうやうなぎをとってくることがある。どじょうなべやかば焼き、ろうそく焼き(ぶつ切りを串焼きして醤油煮にしたもの)にすれば、けっこう夕食のおかずになる。
たまに湊から来るぼでふり(魚の行商人)から背黒いわしを買うこともある。「いわしが来たんなら、ぬたの用意をしてこうよ(来いよ)」とおとっつぁんにいわれると、昼は早めに家に戻り、骨を抜いて酢に漬けておく。
子どものおやつには、いも穴の、のうぼち(わらで編んだ雨よけ)を開け、さつまいもを掘り出し、種いもの残りをふかしてざるに入れておく。また、子どもは焼き米をつくるのを楽しみに待つ。苗代に播いた種籾の残りを炒ってから臼で搗き、ふくべに入れて子どもにあずけておくと、田植えのころまで食べつなげる。
写真:春の夕食
上:漬物(からしな)、おから炒り/下:麦飯、さとまめ(さやえんどう)の味噌汁
出典:桜井武雄 他編. 日本の食生活全集 8巻『聞き書 茨城の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.20-22