聞き書 香川の食事 西さぬきの食より
■魚初穂
だいずのさやに実が入るころ、瀬戸の海はたいやさわら漁でにぎわう。魚が小島のように盛りあがって群れをなすありさまを「魚島」とよび、これが見られると「魚島どき」で、人々の心も浮き立つ。行商人が無塩(新鮮な生もの)のさわらを売りに来る。
麦刈り前に、農家の姑は米とひきかえに大きなさわらを買い、なんてんの葉をえらにさして盆に入れ、嫁に里帰りさせる。里家では、もらったさわらを焼き魚や酢ざかなにする。さらに、さわらを漬けておいた酢を使って、新豆(さやからとり出したやわらかいそらまめ)入りのかき混ぜずしをつくる。ちしゃもみの上にもさわらをのせて、内々で魚初穂をする。
夕闇せまるころ、その日のうちに嫁さんは重箱にいっぱい詰めたおすしにさわらをのせ、焼き魚を竹の皮に包んで婚家へ急ぐ。「なべ貸し」といって、娘かわいさにさわら料理のほとんどを婚家に持ち帰らせるので、この名がある。
写真:魚初穂のごちそう
さわらの酢じめをのせたすし、さわらの焼きもの
出典:井上タツ 他編. 日本の食生活全集 37巻『聞き書 香川の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.220-222