聞き書 新潟の食事 岩船の食より
■氏神さま(弁天さま)の秋祭り
昔、秋祭りは九月二十七日であったが、彼岸すぎからはじまる稲刈りと重なる。晩稲の刈り取りが都合でおくれたりすると、はさ稲に雪が積もることもある。そこで、忙しさをさけて十三日にしたという。とれ秋の祭りは、村中が気を張ってあんもちを搗き、ごちそうをつくる。
塗りのお膳にあゆの塩焼き。また、あゆの酢ごろし(酢じめ)でつくるあゆなますは、はしりの大根を、ごちそう振りにして町から買って、おろしをつくり、みょうがなども加えてつくる。さかずき、はし、とり皿を配しておき、客座敷のまん中に卓を置き、五品とか七品のとりざかなを飾り、そこから好みにとり分けて食べる。おもなとりざかなは、ますのあんかけ、大海、煮しめ、酢れんこん、さけの切身の塩焼きなどである。
煮しめは、さつまいも、ごぼう、こんにゃくなどで、盛り皿に切りいかのつくだ煮を添える。
大海というのは、さし渡し五寸~一尺ほどの平たいふたつきの塗りもので、これに入れてもてなすので、その煮ものも大海といわれる。朱塗りや黒塗りの蒔絵や溜塗りから、豪華な八角の螺鈿のものまであり、吉凶さまざまのときに使う。煮ものの材料は、村により家々により少しずつ違う。鶏肉、しいたけ、たけのこ、糸こんにゃく、ごぼう、油揚げ、豆もやしなどを用いる。細かく切った材料のうまみが溶けあって滋味豊かなごちそうである。豆もやしは、ていねいにするときは糸で束ねて煮て、盛りつけるとき揃えて切って添える。
豊作のとり入れを目前に、地酒をくみかわして、ごちそうに舌つづみを打つ。
写真:漆塗りの大海の容器と料理
しいたけ、糸こんにゃく、里芋、鶏肉、豆もやし
出典:本間伸夫 他編. 日本の食生活全集 15巻『聞き書 新潟の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.94-96