聞き書 埼玉の食事 東部低地の食より
稲の収納が終わると麦播きがはじまる。馬で土起こしをするので昔よりはかどる。それでも、「礫壊し」を使って人力で整地するのは大変だ。
赤城おろしの季節風も強くなり、寒さもきびしくなるころ、母屋と納屋をつなぐ通路の両側へわらの風よけをつくる。高さ一間半くらいで、晴天の日は日だまりになって暖かい。ここにしま台(縁台)を出して繕いものをしたり、近所の人との茶飲み場になったり、切干し大根をきざんだりする。
初冬のある日、田堀(沼)の魚とりが許されることを「沼開き」という。めいめい四つ手網やさで網(三角形の網に長い竹の柄をつけたもの)を持って出かける。一日中、大変にぎやかである。とれたこいやふなは生かしておいてあらいにし、雑魚は焼いてべんけい(束ねたわらに竹ぐしをさしたもの)にさし、乾燥して甘露煮やこぶ巻きに使う。
霜解けで畑仕事がよくできないこのころは、わら仕事が毎日続く。夜は俵編み用の縄をない、昼は俵編みに精を出す。機織りもする。がちゃんこ、がちゃんこ、ちーこ、ちーこと機を織る。織った反物は市場に出し、金にかえる。織った木綿の布は家族の野良着にもする。
写真:田堀でとってきたこいをおろす
出典:深井隆一 他編. 日本の食生活全集 11巻『聞き書 埼玉の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.214-215