1年間の食べものの計画――日常の食生活

連載日本の食生活全集

2024年02月14日

聞き書 秋田食事 県南横手盆地の食より

朝――味噌汁に漬物、あえもの
「朝飯が遅れると一日の作業が遅れる」といわれ、朝起きは主婦の仕事ときまっている。前の日の晩に飯なべで米をといでおき、朝起きたらすぐいろりのかぎ縄にかけ、火を焚きつける。ふつうは山から引いてきた柴を積んでおき、これを焚きものにするか、節約のため、杉の葉を焚いたり、わらを焚いたり、ぬか(籾殻)を焚きものにすることもある。杉の葉、豆稈やわらなどで飯を炊く場合は、いろりの木尻場(焚き木を置くいろりの下座)に座って、炎を見ながら次から次へと燃料をつぎたす。たった一人起き立って、暖かい火を焚き、いろいろ物思いにふけるこのひとときは、しみじみ幸せを感ずるときでもある。
冬は多くかて飯であるが、大麦の押麦の場合は米一升に対し、夏は二合、冬は三合になる。押麦はなべをかぎ縄にかけたときに入れ、飯ばし(飯を炊くときに使う大きなはし)で、ちょっとかき回す。大根かての場合は、前の晩にかて切り器で大根をさいの目に切っておく。
よくかき混ぜて炊いても、米は重いので沈み、なべの底にはかてが少ない。学校へ行く子や山仕事に出る人たちには、かての少ないところを弁当に詰めたり、にぎり飯につくったりして持たせる。
朝のおかずは味噌汁である。二度いも(じゃがいも)、大根葉、ごぼうなどを入れるが、ときどき粕汁や呉汁をつくる。呉汁は、油揚げなどを細かく切って入れるので喜ばれる。そのため、ふだんより多めにつくる。また、きのこの塩出しに大根おろしを添えて、ひたしものにする。大根おろしは一日おきくらいに出す。青頭(宮重大根)が甘みがあっておいしいが、丸い聖護院大根もなかなかよい。朝食の漬物は高菜の塩漬、体菜のこうじ漬、大根の生漬などの中から二種類ほどが出される。味噌漬、しその実漬のこともある。
たまには、こぼれるような紺色のなすに黄色の菊の花をおし、ぽつんぽつんと赤とうがらしを落としたなすの飯ずしや、生大根に、たっぷりつぶし柿をかけた柿漬などの日もある。
冬の寒い朝、菜漬の桶に張った氷に、木つくし(丸太の先を両側からけずったもの)で穴をあけ、指がちぎれるような冷たい漬物を、食べるだけずつとり出す。漬物出しは寒い日のおっくうな仕事の一つである。

写真:冬の朝食
上:大根の生漬と梅干し(種をとり、砂糖と塩で漬けたもの)、なめこおろし/中:ぜんまいのくるみあえ/下:麦飯、大根葉を入れた呉汁

 

出典: 藤田秀司 他編. 日本の食生活全集 5巻『聞き書 秋田の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.94-98

関連書籍詳細

日本の食生活全集5『聞き書 秋田の食事』

藤田秀司 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540850660
発行日: 1986/2
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 386頁

ハタハタずし・しょっつる・いぶり大根・各種貝焼(カヤキ)鍋など、自然の要求と人間の要求が一致した発酵食文化の粋・秋田の食事を、農耕・漁労の営みと共に描く。
田舎の本屋で購入

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