聞き書 長崎の食事 北松浦・壱岐の食より
着物一枚ですごせる陽気な日が続くかと思うと、急に寒くなったり、日によって気温に大きな差があるのが、この地域の早春の特徴で、このころになると川の下流に白魚(しらうお)がのぼり、浅い川底の岩にはあおのりがつく。暖かくて風のない日には、子どもたちはじっとしていられず、親にかくれて川に行く。
春の大潮の一日、女、子ども連れだって、めのは(わかめ)やみな(にな貝、巻貝の一種)とりに海に出かける。農作業は田では春田すき、くれしゃぎ(土砕き)、くれ返しを行ない、この地域の特産品のはす畑(水田)も一週おきに三回ほどほどき(耕し)、肥料に大豆かすを入れる。畑では野菜のつくりこみ(種播き)、麦刈り、いもさしと続く。
春の食事は、飯は麦飯(麦、米)か、あわ飯(麦、米、あわ)、えんどうや唐豆(そらまめ)のある間は豆ん飯(麦、豆、米)を炊く。朝の味噌おつけの実は、とりたてのめのは、大根、たけのこなどで、これに白菜漬か大根漬がつく。昼、飯の少ないときは、じゃがいもとめのはのだご汁(だんご汁)や、野菜を入れたそばぞうしをつくり、漬物と醤油の実を添える。夜の飯の菜は煮しめと漬物のときが多い。煮しめの材料は、屋敷まわりにあるたけのこ、つわ、じゃがいも、ごんぼ(ごぼう)にわらびやぜんまいなどで、このうち二、三品を組み合わせる。だしはいわしの焼き干しを使うが、ふんぱつして魚の煮つけをしたときはその煮汁だけである。
写真:ある春の日の昼食
上:漬物/下:麦いも飯、いわし
出典: 月川雅夫 他編. 日本の食生活全集 42巻『聞き書 長崎の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.144-145