聞き書 石川の食事 白山麓の食より
なぎ畑ではそばのできがよいので、そばをたくさんとる。だからトメさんは、そばの粉を使ってのいりこ、そばだご、そばほうとう、手打ちそばなど、数多くのつくり方を心得ている。夏は日が長く疲れるため昼寝をするが、昼寝のあとには必ず谷間を流れる冷水でそばのいりこを練って食べる。疲れもとれ、また仕事に出かける元気がわいてくる。
真夏の太陽の下、生活をささえる現金収入となる炭焼き作業をする。愛宕家では、年間二〇〇〇俵ほど焼く。炭焼き作業には男たちがたずさわる。
五月上旬に二升ほど播いた麻は、八月十二~二十日の間に刈りとる。麻釜で蒸してから麻蒸し桶に入れ、さらに蒸す。皮を糸にして着物にする。
■昼――いい、きゅうりの味噌汁、焼いたこんかいわし、なすの煮しめ、塩なす
きゅうりをさっと熱湯にくぐらせてから冷水にあてると、色あざやかになる。これを適当に切って味噌汁の実とする。
こんか(こぬか)いわしは、さっと焼き網で焼くとおいしい。こんかいわしはジゲへ出かけたおり、塩漬けしたいわしを箱買いし、出作り地に持ち帰って、ぬかと塩で漬けこんだものである。日もちさせるため塩を濃いめにしておく。農作業で汗を出したあとの焼いたこんかいわしは食欲をそそる。
なすは、小なすのうちに収穫し、丸ごと煮しめにする。炊いてすぐより、半日ほどおいたほうが味がよくなじむ。
写真:夏の昼食
膳内上はなすの煮しめとこんかいわし。下はいいときゅうりの味噌汁/膳外はなすの塩漬。
出典:守田良子 他編. 日本の食生活全集 17巻『聞き書 石川の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.140-142