聞き書 静岡の食事 伊豆海岸(雲見)の食より
五月から六月、海では、てんぐさをはじめとして、ぼら、うずわ、あじ、いか、それに、たくさんの貝類が、一年中で最もとれる時期である。
しかし何はさておいても、まずは田植えに村中の総力がかかる。あまり広くもない田んぼではあるが、田植えがすむまでてんぐさ漁は一時休みになり、海の仕事の間にうまく田の仕事を組み入れて労働力を集中する。
てんぐさ漁から田植えのこの季節は、一年中で一番忙しい時期であり、村中の者が、大人も子どもも総出で協力し合って仕事をする。海や田んぼでの作業は、収益をあげることよりも、集落全体の共同作業で一〇〇世帯の人々が互いに助け合ってやるので、みんなあまり苦にならず、仕事にいそしむ。雲見の高橋さんの家では、六反の田の仕事を近所の家と共同でする。忙しいときには、食事づくりも主婦同士が互いに協力し合ってするのである。
その合い間をみて、夏野菜のなす、きゅうり、かぼちゃの苗付けや、あわ、大豆、とうもろこしなどの耕作もしておく。
田植えが片づくと、待ちかねていたように海に出る。うずわは一本釣りで、七月ごろから秋口までに釣れたものを、自家用のなまり節やうずわ節にして一年中保存できるようにしておく。うずわ節は、だしにするだけでなく、味噌やのり、しょうがと合わせておかずにしたり、なまり節は、夏場は子どもたちがおやつに丸かじりしたりすることもある。
いかも、夜釣りしたものを干して、するめにして保存する。六月ころには、梅干しやらっきょも塩漬にしてから酢に漬け、一年中十分食べられるようにつくっておく。
■夜――麦飯、いっこの味噌汁、豆腐のやっこ、あしたばのごま味噌、たくあん
あしたばは、畑の日だまりや、家と家の間の露地に自生している。ちょっとおかずが足りないと思うとき摘んできて、おひたしやてんぷらにする。
写真:夏の夕食
上:やっこ豆腐、あしたばのごま味噌/中:たくあん漬/下:麦飯、味噌汁
出典:大石貞男 他編. 日本の食生活全集 22巻『聞き書 静岡の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.91-93