聞き書 和歌山の食事 和歌浦沿岸の食より
「土用なかばに早秋風」ともいうが、しばらくは寝苦しい夜が続き、雨戸を開けて蚊帳の中でうちわをつかう。「東風の半晴れ」で沖は土用波が続き、よく蒸す。どうやら台風が来ているらしい。
氏神さまの祭りの練習の笛の音が聞こえ、子どもたちがやまかけ(とんぼとり)に興じたかと思うと彼岸もすぎ、台風の吹き荒れたあとの秋晴れの空に、葉を吹き落とされた柿の実が残る。
九月に入り、台風を避けて湾内で細々と操業していた棒受網漁の舟も沖へ出る。しびなわも出漁する。秋かつおの船が大漁旗を揚げて帰港しはじめると浜は活気づき、岬では古せん(秋のとびうおで、大きいが味が少し落ちる)漁がはじまる。
棒受網でとれるあじも大きくなり、ぜにご(ぜいご)をとって煮つけたり、身を酢味噌にしたり、たたいてすり身にしたり、にぎりずしにしたりするが、七厘の炭火で焼きながら二杯酢をつけて食べるのは、また格別である。焼いた残りははいらず(はい帳)に入れておいて、汁や煮もののだしに使う。
写真:棒受網でとった新鮮なあじの姿ずし
出典:安藤精一 他編. 日本の食生活全集 30巻『聞き書 和歌山の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.239-242