秋――店頭や行商の車に並ぶ秋の味覚

連載日本の食生活全集

2024年09月30日

聞き書 山口食事 城下町萩の食より


秋の空は高く、そして深く澄みきって美しい。秋風が立ちはじめると、まつたけや栗、梨など山の幸の訪れを待ちながら、おかさまは合ものに衣替えをしてたすきをかけ、まっ白い割ぽう着姿で立ち働く。秋の夜長には、布団の仕立てと秋祭りの準備、正月用晴れ着や冬ものの仕立てにいそしむ。それはまた娘の花嫁修業の場でもある。
待ち遠しかったまつたけが店先や行商の車に並ぶと、初ものは少し買って、畑のゆずきちを吸い口におつゆで香りを楽しむ。出盛りになると毎日買って、焼きまつたけや、まつたけごはん、こうじ漬にする。栗も買って栗ごはんを炊く。梨も八百屋の店頭に並び、裏庭の柿も色づく。
「さば買やらんか」という振り声で、かねり(頭上にたらいをのせて売る女衆)が玉江浦から生きた秋さばを売りにくる。秋さばは脂がのって値段も安くおいしい。ぎらぎらと輝いて生きのよいさばは刺身や湯引きに、そしてきずし(しめさば)や味噌煮、塩焼きにする。また、しょうがを入れた煮つけや照焼きと、いろいろ料理法を工夫して目先を変える。

写真:さばの湯引き
秋が一番おいしい

 

出典:中山清次 他編. 日本の食生活全集 35巻『聞き書 山口の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.294-295

関連書籍詳細

日本の食生活全集35『聞き書 山口の食事』

中山清次 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN: 9784540890017
発行日: 1989/4
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 382頁

日本海、響灘、周防灘の三つの海に囲まれる山口県は、西日本の陸海交通の要衝。維新以来、歴史を動かしてきた地の人々の暮らしの呼吸と食べものを伝える。
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