聞き書 茨城の食事 南部水田地帯の食より
たん貝と大根はいずれも浮島の名物である。この二つの材料がうまく組み合ったものが、たん貝と切干し大根の煮つけで、秋から冬にかけてのお菜としてもよくつくるものである。
たん貝は中身だけでなく貝殻も商品になる。これはたん貝の貝殻がボタンの材料になり、浮島にその工場があるからである。
たん貝は、夏食べることが多い。暑かったりすると、子どもも大人も近くの川へ水浴びに行く。ついでにたん貝をとってきて、貝ぶたをこじあけて中身をとり出し、固いところをたたいてやわらかくし、「切干し大根と煮てくれや」と女の人に渡す。
この中身はゆで、切干し大根を水にもどして水を切り、油で炒める。それから、たん貝と切干し大根を味噌で煮る。長く煮ると、たん貝が固くなるので、味噌の味がしみこんだところで食べる。
たん貝は、この切干し大根と味噌で煮こむことによって不思議とやわらかくなり、年寄りでも食べられるようになる。
出典: 桜井武雄 他. 日本の食生活全集 8巻『聞き書 茨城の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.127-128