聞き書 長野の食事 伊那谷の食より
県南の農家には、柿、桃、梨、梅などが必ず一、二本植えてある。柿には甘柿、小柿、渋柿がある。秋になると子どもたちは甘柿が色づくのを待ちかねてとって食べる。
小柿は霜が当たらないと渋が抜けない。黒みを帯びた色に変わってくると甘くなるので、大根漬などに入れる。甘みのきいたおいしいたくあん漬ができる。
渋柿は、干し柿に加工する。秋も終わりに近づくと、夜なび(夜なべ)に柿の皮むきをする。へたを残して皮をむき、細縄に数珠のように連ねて軒下へ干すと、柿ののれんができる。傷柿や少し熟した柿は、たて四つ割りの切り柿にして干しておく。これが秋の終わりから冬にかけてのおやつになる。柿の皮も、おやつや柿もちにするので、すてるところはない。
秋、はちや柿をわらづとに入れてとっておき、熟し柿をつくる。冬の夜にこたつへあたりながら、麦こうせんをつけて食べる。
桃は水蜜桃で、小さくても甘い桃だが、どこの家にもあるわけではない。あまり手入れをしないので虫や病気がついて、見かけのよいものはとれない。
梨も赤梨の小粒である。山の木のように大きくそびえているので、棒でたたいて落とす。
このほかに、ぐみ類、ゆすら(ゆすら梅)などもあって、四季おりおりの楽しみがある。
甘酒もときどきつくる。熱い甘酒は、寒い日のなによりのごちそうになる。こたつのおきを利用して、おもに冬場につくる。ふうふう吹いて飲みながら、お葉漬を一緒に食べる。塩気が適度に入って、甘酒の甘みがひきたつ。
写真:4つに割って干した「切り柿」
出典: 向山雅重 他編. 日本の食生活全集 20巻『聞き書 長野の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.123-123