聞き書 福井の食事 若狭中山間の食より
盆がすんだと思うと、一気に涼しくなって、秋の気配が身にしむようになる。ようやく穂を垂れはじめた稲と、台風の近づきそうな空を見上げて、うれしさと心配が入り混じるのもこの季節である。若狭の九月はわりに晴れる日が多く、男たちは稲木を結い、女が稲を刈ると、これを寄せてかけ、ともどもに稲をこき、籾を干し、土臼で臼すりをする。女二人はねどりといって、臼の元について臼を回しながらその中へ籾入れをし、男はかせを押して臼を回す。昭和二年ごろから動力をつけた籾すり機になる。
米がとれて、野菜が豊富になり、心持がゆったりするとはいうものの、早い冬の足音も聞こえてくる。冬の間の焚き木をとり寄せて家のまわりに積み、大根を引いて洗い干し、その他の野菜類もすみやかに集めて、長い冬ごもりに備える。
■夕――麦飯、昼に残ったおつけ、野菜の煮つけ、いわしのへしこ、たくわん
野菜の煮つけは、大根、にんじん、こんにゃく、田芋、それにちくわなどを一緒に煮る。たいてい醤油味で、よく煮えて熱いうちがおいしい。秋もなかばをすぎると海が荒れはじめて、たまに田烏あたりからくる魚売りも、凪の日にとれたいわしを丸干しにしたものか、さばやいわしのへしこを持って商いにくるぐらいで、春や夏ほど魚を食べることはない。
西のほうの山にまつたけが少し出る。みんなねらっているのでめったに口に入ることがない。きのこ類もひらたけなどが自然に朽ち木に出ていて食べるが、地中から生えるものはほとんど食べることがない。
写真:秋の夕食
上:野菜の煮つけ、いわしのへしこ/中:たくわん/下:麦飯、おつけ
出典:小林一男 他編. 日本の食生活全集 18巻『聞き書 福井の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.229-231