田芋、大根と、とれたての野菜の煮もので――日常の食生活

連載日本の食生活全集

2024年09月04日

聞き書 福井食事 若狭中山間の食より

盆がすんだと思うと、一気に涼しくなって、秋の気配が身にしむようになる。ようやく穂を垂れはじめた稲と、台風の近づきそうな空を見上げて、うれしさと心配が入り混じるのもこの季節である。若狭の九月はわりに晴れる日が多く、男たちは稲木を結い、女が稲を刈ると、これを寄せてかけ、ともどもに稲をこき、籾を干し、土臼で臼すりをする。女二人はねどりといって、臼の元について臼を回しながらその中へ籾入れをし、男はかせを押して臼を回す。昭和二年ごろから動力をつけた籾すり機になる。
米がとれて、野菜が豊富になり、心持がゆったりするとはいうものの、早い冬の足音も聞こえてくる。冬の間の焚き木をとり寄せて家のまわりに積み、大根を引いて洗い干し、その他の野菜類もすみやかに集めて、長い冬ごもりに備える。
夕――麦飯、昼に残ったおつけ、野菜の煮つけ、いわしのへしこ、たくわん
野菜の煮つけは、大根、にんじん、こんにゃく、田芋、それにちくわなどを一緒に煮る。たいてい醤油味で、よく煮えて熱いうちがおいしい。秋もなかばをすぎると海が荒れはじめて、たまに田烏あたりからくる魚売りも、凪の日にとれたいわしを丸干しにしたものか、さばやいわしのへしこを持って商いにくるぐらいで、春や夏ほど魚を食べることはない。
西のほうの山にまつたけが少し出る。みんなねらっているのでめったに口に入ることがない。きのこ類もひらたけなどが自然に朽ち木に出ていて食べるが、地中から生えるものはほとんど食べることがない。

写真:秋の夕食
上:野菜の煮つけ、いわしのへしこ/中:たくわん/下:麦飯、おつけ

 

出典:小林一男 他編. 日本の食生活全集 18巻『聞き書 福井の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.229-231

関連書籍詳細

日本の食生活全集18『聞き書 福井の食事』

小林一男 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN: 9784540870187
発行日: 1987/6
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 384頁

木の芽峠を境に嶺南と嶺北に分かれる福井県は越前と若狭の二国から成る。報恩講を開いては食を共にして絆を深めあう越前、海の幸と山の幸がともに食膳にのぼる若狭の国。
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