聞き書 高知の食事 香長平野の食より
十月に入ると大根、にんじん、田芋、ごぼ、こんにゃくなどがとれ、やがてあぜの大豆も収穫される。店売りのこんにゃく、豆腐もおいしくなるが、自家製造もする。こういう季節になるとぐる煮を炊いて、煮返し煮返し食べる。
さいの目切りの根もの野菜と、豆腐、こんにゃくをじゃこのだしで、汁を多くしてことこと煮るだけである。味は醤油と砂糖。煮くずれやすい田芋は親指の先ぐらいに、ごぼは乱切りに小さく。ときどき、歯ごたえのよいこんにゃくにであったり、ふわっとやわらかい豆腐をかんだりする。豆腐は厚揚げなら、なおうまい。
なお浄土真宗の寺では、二分ぐらいのさいの目に切りそろえ、小豆を入れて精進で炊いたものを「おいとこさん」とよぶ。旧暦十一月二十五日は、親鸞聖人入寂の仏事を手前にとりこした「おとりこし」という祭りがあり、信徒は米を持って寺まいりをする。寺ではおいとこさんのふるまいがある。信徒の家でもたくさん炊いて、「今日はお仏事ですきに」といって、近所にも配る。子どもはこの煮もののことを「おぶつじ」だと思っている。寺の話では、小豆と豆腐、大根とにんじん、田芋とこんにゃくが、それぞれいとこ同士なのだという。
出典:松崎淳子 他. 日本の食生活全集 39巻『聞き書 高知の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.71-72