ぐる煮

連載日本の食生活全集

2020年10月01日

聞き書 高知の食事 香長平野の食より

十月に入ると大根、にんじん、田芋、ごぼ、こんにゃくなどがとれ、やがてあぜの大豆も収穫される。店売りのこんにゃく、豆腐もおいしくなるが、自家製造もする。こういう季節になるとぐる煮を炊いて、煮返し煮返し食べる。
さいの目切りの根もの野菜と、豆腐、こんにゃくをじゃこのだしで、汁を多くしてことこと煮るだけである。味は醤油と砂糖。煮くずれやすい田芋は親指の先ぐらいに、ごぼは乱切りに小さく。ときどき、歯ごたえのよいこんにゃくにであったり、ふわっとやわらかい豆腐をかんだりする。豆腐は厚揚げなら、なおうまい。
なお浄土真宗の寺では、二分ぐらいのさいの目に切りそろえ、小豆を入れて精進で炊いたものを「おいとこさん」とよぶ。旧暦十一月二十五日は、親鸞聖人入寂の仏事を手前にとりこした「おとりこし」という祭りがあり、信徒は米を持って寺まいりをする。寺ではおいとこさんのふるまいがある。信徒の家でもたくさん炊いて、「今日はお仏事ですきに」といって、近所にも配る。子どもはこの煮もののことを「おぶつじ」だと思っている。寺の話では、小豆と豆腐、大根とにんじん、田芋とこんにゃくが、それぞれいとこ同士なのだという。

 

出典:松崎淳子 他. 日本の食生活全集 39巻『聞き書 高知の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.71-72

関連書籍詳細

日本の食生活全集39『聞き書 高知の食事』

松崎淳子 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540860256
発行日:1986/06
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

酢料理は日本一、豪快な皿鉢料理など土佐の伝統食は南国の香りがいっぱい。その他、山の民俗の宝庫といわれる高知山間の土の香りのする料理の数々を紹介する。
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