聞き書 高知の食事 香長平野の食より
おおつご(大つごもり)の夜、煮ものを白米の炊き初穂とともに供えて、お灯明をともす。
干し大根、にんじん、ごぼ、こんにゃく、豆腐。干し大根は輪切りで、ひとゆでしてあく出しをして、炊き合わす。ここまでは家によって豆腐があったりなかったりでまちまちであるが、必ず入れるのは、くじらと青こぶである。青こぶは緑青でまっ青に着色した糸切りこんぶで、正月が近づくと村の店屋に出る。くじらは年中魚屋で扱っている。赤身のところをころころに切って使う。くじらがない年は、はつ(きはだ、めばち)を入れる。
これらをなべにいっぱい入れ、ぐつぐつと炊く。ふだんならじゃこのだしで干し大根ばっかりとか、よくてにんじんが入るぐらいなのに、こぶやくじらも入ってうまい。
「おおざかなを入れにゃいかん」と母は、娘に教える。大ものに、という願望であろうか。切り方にきまりはない。味は醤油味。
お正月さま、お松さまはもちろん、おくどさま、おえぶっさま(えびすさま)、神棚などに供えて、家内一同、この煮ものを食べて越年する。
写真:おおつごの煮もの
くじら、こんにゃく、干し大根、にんじん、ごぼう、田芋、じゃこ、青こぶなど
出典:松崎淳子 他. 日本の食生活全集 39巻『聞き書 高知の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.72-73