聞き書 長崎の食事 北松浦・壱岐の食より
晩秋の野山に野菊にも似た黄色の花を咲かせたつわは、三月初めになると、うぶ毛をいっぱいつけた新しい茎をたくさん出す。風当たりが少なく、陽がよく入る南側の斜面や竹山のほくほくした土に生えるつわは、長さが一尺以上にもなり、茎も太くてやわらかく、おいしい。子どもたちはそんな場所をよく知っていて、春になるととりに出かける。また、海辺の崖も年中暖かいのでつわが多く、春の磯行きの合い間、この山の幸までとることもある。
ひき抜いたつわは葉つきのまま持ち帰り、皮をむく。右指で葉のつけ根を折り、そのまま人差し指を支柱に葉をつまんで根元のほうへ曲げると、やわらかい茎は大きくしなり、皮がむける。二年もののつわは茎にうぶ毛が少なく、皮をむくと途中でぽきんと折れる。二、三本むくと指も爪も黒くなるほどあくが強いので、すぐに水につける。
あくを十分に出したつわは、二寸ほどに切りそろえて、油で炒め、醤油と、あれば煮砂糖を加えて煮しめたり、魚の煮汁で炊いたり、またひな節句や花ちらし(花見)講のときなどにつくる混ぜ飯や巻きずしの具にも使う。ふきと異なり身がしなやかで、歯ざわりがやわらかく、特有の風味は春を知らせる味としてだれにでも好まれる。たくさんとったときは、味噌漬や日干しにしてかめに保存する。
写真:つわ入り混ぜ飯
つわ、にんじん、ごぼう、しいたけ
出典:月川雅夫 他. 日本の食生活全集 42巻『聞き書 長崎の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.178-178