春一番のこあめ料理と野草の緑が新鮮―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2021年03月12日

聞き書 山形の食事 庄内平野の食より

三月十五日の田の神おろしのもちを配るころから流しの窓のつららが細くなり、凍みることもなくなるので、かたもち(かきもち)やあらね(あられ)づくりの準備をする。このときのもち切りで手につくったまめが治らないうちに、四月三日の月おくれのひなの節句のしたくをしなければならない。
雪解けを待っていたかのように、最上川のねこやなぎが芽を吹き、土手のばんけ(ふきのとう)も萌黄色の頭をもたげる。この時期になると宮野浦の魚屋が自転車に小さなリヤカーをとりつけ、ぴんぴんはねているこあめを木箱に入れたものを、一〇箱くらい積んで売りにくる。振れ売りの姿に、長い冬ごもりがあけ、春がやっときたことを感じる。
鳥海山の残雪が、じさま(じいさん)が枡を持って種を播いているかっこうに見えるようになると苗代づくりの適期だと語り伝えられ、それを目安に苗代づくりがはじまる。四月上旬の水苗代は冷たく、木綿の紺のもんぺに素足の作業では、手も足もまっ赤になってしびれてくる。しかし、春の農作業は時間と日数を争うもので、植えるもの、播くものとつぎつぎに手ぎわよく、冷えた手足を暖めるひまもないまま、作業を進めなければならない。

写真:春の昼食
朝の残りの二番米飯と汁に、切干しと油揚げの煮もの、こあめのすりみ、漬物を添えて。

 

出典:木村正太郎 他. 日本の食生活全集 6巻『聞き書 山形の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.211-212

関連書籍詳細

日本の食生活全集6『聞き書 山形の食事』

木村正太郎 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540880445
発行日:1988/10
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

山形の「母なる川」最上川が結ぶ置賜盆地、村山の平野と山間、県北の最上、庄内平野。暮らしの柱にある米と結びついた山と海の幸のすべてを紹介。加えて、羽黒山修験道の食、酒田海船問屋の食を再現。
田舎の本屋で購入

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