田植えどき、さなぶりの食べもの―晴れ食・行事食

連載日本の食生活全集

2021年05月17日

聞き書 秋田の食事 県央男鹿の食より

田植えどきの食べものとしてよくつくるものは、身欠きにしんのこんぶ巻き、塩漬はたはたを生だし(塩抜き)してすしに漬けるすしはたはたなどで、赤飯や、きな粉をつけた大きなにぎりままと一緒に食べる。これらの食べものは、田植えはじめと終わりに、必ず田んぼの水口にお膳にのせて供え、豊作を祈願する.
苗とりは熟練した年寄りの仕事であるが、水苗代でからだが冷えてしまうので、植える人たちより一時間以上も早く終えて家に上がってもらい、高足膳で夕食をごちそうする。お膳は、焼き魚、とびうおと大根の切干し、にんじん、こんにゃくなどの煮つけ、ささげの煮豆、すしはたはた、いわしのぬた、あんこうのともあえ、ごぼうのでんぶなど、七品ほど並べる。
田植えが終わると、手間を貸し合った仲間で慰労を兼ねた「さなぶり」祝いを行なう。もちを搗き、魚と大根の切干しの煮つけ、焼き魚、いわしとうどのなます、わらびのひたしなどをこしらえる。このときは、海と山の出盛りのものを利用する。上野家では、酒を飲む人がいないのでつくらないが、まわりの家では、どぶろくをいつもつくっておき、たばこ休みはもちろん、食事のときも、さなぶりのときも、お茶がわりに飲む。
このころ、学校では運動会がある。年に何回か、数えるだけしか使わない食用油(菜種の実をとり、しぼったもの)を利用して、あんぷら、ごぼう、魚などのてんぷらを揚げ、重箱に入れ、のり巻きずしや魚の煮つけなどの重箱と重ねて持っていく。お昼前からそれぞれの場所に陣どって、子どもと一緒に重箱を開く。
田植えがすみ、運動会も終わって一段落すると、また男たちはお盆までの間、ほたて貝やこんぶとりの出稼ぎに北海道方面に向かう。

写真:田植えどき、豊作を祈願してつくる食べもの
上:〔左から〕身欠きにしんのこんぶ巻き、はたはたの切りずし/下:きな粉のにぎりまま、たくあん漬、赤飯のにぎりまま(いたどりの葉にのせる)

 

出典:藤田秀司 他. 日本の食生活全集 5巻『聞き書 秋田の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.27-28

関連書籍詳細

日本の食生活全集5『聞き書 秋田の食事』

藤田秀司 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540850660
発行日:1986/02
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 386頁

ハタハタずし・しょっつる・いぶり大根・各種貝焼(カヤキ)鍋など、自然の要求と人間の要求が一致した発酵食文化の粋・秋田の食事を、農耕・漁労の営みと共に描く。
田舎の本屋で購入

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