農繁期のこびりには白米のおにぎり―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2021年06月10日

聞き書 熊本の食事 県南の食より

田植えには近所の人や親類など約三〇人の加勢を受け、朝六時ごろに集まってもらう。植綱に沿って、田植え歌の調子に合わせていっせいに植える。この日はおこわ(赤飯)を炊き、白米のおにぎりや煮しめを準備するため、近所の人や親類に手伝いを頼んでおく。
田植えがすむと、炎天下で、藺草の刈取り作業がはじまる。「藺切る(生きる)か死ぬか」とまでいわれる重労働である。まず、刈りとった藺草は束ねて、田んぼの片すみの穴を掘ったところで泥染めをする。泥につけるのは、藺草を色よく染めて変色を防ぐためと、そのままの形で乾燥させるためである。さらにそれを干して並べるので、雨が降りそうになると、藺草をとりこまなくてはならない。ときには雲行きをうかがいながら、立ったまま昼食をとることもあるので、おかゆを冷やしておいたり、そうめんやむっきりを準備しておく。しかし、そんななかでも、家族のからだを気づかうことは忘れない。この時期だけは白米食にし、こびりも、米の粉でつくったまんじゅうやだごに、白米のおにぎりを用意する。
田植えがすむと盆までは、男は水回りの管理や田畑の草取り、女はござ打ち(ござ織り)作業である。ござは、大切な現金の収入源である。
昼―むっきりやそうめん中心
夏は、むっきりやそうめんなどのめん類が多い。むっきりは、いりこや干ししいたけでだしをとり、その中に一晩水につけた大豆を入れてやわらかく煮る。醤油で少し濃いめに味をつけ、食べるまで水につけて冷やしておく。これを、小麦粉をこねてつくった冷やし麦めんにかけて食べる。二度ぶろ(いんげん豆)は、さっとゆがいてごま醤油あえにしたり、油炒めにすると、お茶うけにもよい。い草刈りの時期には、これらに白飯がつく。

写真:夏の昼食
飯台:むっきり、なすびの浅漬、冷ややっこ、長ぶろのごまあえ/台の外:きゅうりの浅漬

 

出典:小林研三 他. 日本の食生活全集 43巻『聞き書 熊本の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.245-246

関連書籍詳細

日本の食生活全集43『聞き書 熊本の食事』

小林研三 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540870316
発行日:1987/08
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 368頁

阿蘇は野焼きでよみがえり、萌え出る山菜や若草は人と牛の生命を育む。急流球磨川の水と豊かな米は生活の酒・焼酎を生んだ。天草の海にはさけんばかりの魚。豊かな肥後。
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