聞き書 秋田の食事 県南横手盆地の食より
秋の空は澄んで月の光も美しい。八月十五日の満月を「豆名月」と呼んでいる。この日は畑から青豆をとってきて葉だけをとり、枝豆にしてそのままゆでて供える。夕方、もちを搗いて直径七寸くらいの水とりもち二つをお膳にのせ、枝豆、果物などとともに月のよく見えるところに供える。九月の名月は十三日で、同じように栗やいものこを膳にのせて供え、すすきも添える。八月の名月にはゆで豆を食べ、九月の名月にはゆで栗を食べる。
九月の節供(節句)を三供という。九月九日(初節供)、九月十九日(中の節供)、九月二十九日(刈上げの節供)の三回で、どの日にも、もちを搗いて田の神に供える。とくに刈上げの節供は「ほいどももちを搗く」(乞食ももちを搗く)といって、米を量る箕に米粉をふり、その上に一臼もちをのせて、のしもちをつくる。このもちを「箕取りもち」ともいい、その上に刈り稲二束、稲刈り鎌、菊の花などを添え、箕のまま供える。
写真:名月膳
膳内は、ゆでた枝豆、お供えもち、梨、ぶどう。ろうそくをともし、すすきもあげて月を拝む。
出典:藤田秀司 他. 日本の食生活全集 5巻『聞き書 秋田の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.109-111