聞き書 岩手の食事 県北の食より
二百十日には、部落中の人たちが天王さまに集まり、別当さまからご祈祷を受け、赤飯、煮しめ、酒で無事を祈る。
九月の九のつく日(九、十九、二十九)には九日もちを搗いて食べる。農繁期を前にしたからだづくり、あるいは疲労回復のためとされ、二十九日には新米を供える。また、鶏肉などを入れた雑煮もちや、くるみもちもつくる。
九月十六日は農神さまが山へ帰る日。三月十六日には平たいだんごをつくったが、この日は穀物が実ったので、丸いだんごを一六個供えて感謝する。このあたりでは赤飯、煮しめなどをつくる。各種野菜と焼き豆腐が、ふだんの粗食の補いとなっている。
このころから農繁期もしだいに終わりに近づき、山仕事が始まる。そのための一区切りとして庭仕舞いがある。秋仕舞いともいう。十一月二十日の二十日講(えびす講)に行なう家が多い。きび粉の平たいだんごを小豆じるこに入れた浮き浮きだんごが、この日の夕食の主役である。にんじんやかぼちゃなどのてんぷら、しめじ、ながいも、油揚げの吸いものなどのごちそうが出る。新そばでそばはっとうをつくる家もある。それに、どぶろくや酒かすを溶かしたどべなどで楽しむ。やがて、神さまたちのお年取りが近い。
写真:庭仕舞いのごちそう
膳の上:(左から)ひきこんぶの煮もの、てんぷら/膳の下:(左から)浮き浮きだんご、かっくいのおろしあえ、吸いもの/右:そばはっとう(上)、どぶろく
出典:古沢典夫 他編. 日本の食生活全集 3巻『聞き書 岩手の食事』. 農山漁村文化協会, 1984, p.33-33