なべのつるが冷たく手につく朝の食事づくり―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2021年12月03日

聞き書 山形の食事 庄内平野の食より

農作業も一段落しほっと一息つく十一月から十二月にかけて、庄内の各寺で座禅が行なわれる。質素倹約を心がけるのが当然の農村でも、この日を境に足袋をはいてもよいならわしになっていて、冬に向かう節目の行事になっている。
土蔵や倉には、収穫したばかりの米、大豆、小豆、夏に収穫を終えている大麦の俵が積まれ、にわ(作業場)の二階には、牛馬の干し草の間に二度いも(じゃがいも)の俵も並んでいる。倉の軒下には、からとり(里芋の一種)の茎や串柿が、風通しや日当たりを考えながら干され、漬物小屋には、山菜、野菜が漬けこまれた大きな桶やかめがところ狭しと並ぶ。こんにゃく玉は、いろりの上の火棚で乾燥されている。
正月がすぎると、若勢(下男)たちの米俵編みがはじまる。小さい若勢はわらすぐりが専門、めらし(下女)は俵のふ縄(みご縄)ないや、使い縄ないをする。女たちは、わらむしろや味噌煮用のむしろを織ったり、豆腐すりや青米すりをしたり、家の中の仕事が絶え間なく続く。また、繕いものや下着をつくるなど、一針一針手縫いの仕事を夜の九時ごろまではしなければならない。なかには古くから伝わる庄内さしこに熱中している人もいる。
どこの家の中にも、にわの右か左に必ずといってよいほど馬屋があり、馬が人とともに同じ屋根の下で生活している。牛馬は農作業をするうえで重要な働きをするので、若勢たちは大切に世話をする。
昼―くだけもち、はたはた漬や塩引き、塩漬なすと二度いものけんちん
天気のおだやかな日を見計らって、肥引きと呼ぶ、堆肥を田に分配する作業がはじまる。このころになると、一〇日に一度くらいの割合で、くだけもちを搗く。もち米を節約するために青米の粉を混ぜて搗き、塩小豆を入れて手で平たく押した、直径三寸もある大きな丸もちにする。まわりわたしで焼いて、昼飯どきに一個ずつ渡され、足りない分はわらいずみ(飯詰。わらで編んだふたつきのお鉢入れ)に入れておいた温かい二番米飯を食べる。

写真:冬の昼食
朝と同じごはんと汁だが、塩引きを焼き、大根炒りを添えて。

 

出典:木村正太郎 他編. 日本の食生活全集 6巻『聞き書 山形の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.204-207

関連書籍詳細

日本の食生活全集6『聞き書 山形の食事』

木村正太郎 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540880445
発行日:1988/10
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

山形の「母なる川」最上川が結ぶ置賜盆地、村山の平野と山間、県北の最上、庄内平野。暮らしの柱にある米と結びついた山と海の幸のすべてを紹介。加えて、羽黒山修験道の食、酒田海船問屋の食を再現。
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