聞き書 石川の食事 金沢商家の食より
雪おこし(雪雷)が地響きをたてて鳴り響くと、きまってみぞれやあられのしぐれ模様となり、本格的な冬が訪れる。このころになると、ぶり、たら、あまえび、鮭、ふな、こうばこがに、ずわいがにが味を競い合い、単調な冬にいろどりと味覚を楽しませてくれる。
■夜――白飯、ぶりの粕汁、ぶり大根、たらの真子煮、かぶらずし、漬物
おわねさんは六時ころまで店番をし、ようやく夕食の準備にとりかかり、一時間ほどでしたくを終える。時間があればまた店に出て、八時から夕食となる。
ごはんは夜新しく白飯を五合ほど炊き、あつあつをいただく。お汁は、ぶりや鮭の粕汁、たら汁、めった汁(野菜、揚げなどのたっぷり入った味噌汁)などで、冷えたからだを温めてくれる。
おかずは、豊富に手に入る魚をふんだんに使って冬の味覚を楽しむ。たとえば、ぶり大根やぶりの塩焼き、たらの煮つけ、たらの真子煮に白子の酢のもの、鮭の色づけ(照焼き)、ふくらぎ(体長一尺ほどのぶり)やぶり、あまえびの刺身、こうばこがに、ずわいがになどがよく食卓に上る。かには各自で身をとり出し、二杯酢で食べる。このほかに、ふろふき大根や野菜の煮もの、野菜と揚げとの炊き合わせ、おあつもの(材料をぜいたくに入れた煮もの)やじぶ煮、煮豆やかぶらずしなどのこともある。夜のおかずはたいてい三品ほど食卓に並ぶ。
漬物は、たくわん、大根の浅漬、きゅうりの粕漬、大根の切り漬などである。
寒さの厳しい日には、かきの土手なべや寄せなべでからだを温める。二月には年に一度だけ、牛肉、ねぎ、しゅんぎく、せり、焼き豆腐、糸こんにゃくを入れてすき焼きをすることがある。牛肉は珍しく、たいそうなごちそうである。
おわねさんは、店を閉めてからも、洗濯や針仕事、明日の昼食の下ごしらえやひっついさんの準備があり、寝るのはたいてい一二時ころである。
写真:冬の夕食
上:かぶらずし、ぶり大根/中:なすの塩漬、たらの真子煮/下:白飯、ぶりの粕汁
出典:守田良子 他編. 日本の食生活全集 17巻『聞き書 石川の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.16-19